マオとミカド 日中関係史の中の「天皇」 城山英巳著

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マオとミカド

『マオとミカド』

著者
城山 英巳 [著]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560097984
発売日
2021/06/02
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

マオとミカド 日中関係史の中の「天皇」 城山英巳著

[レビュアー] 加藤哲郎(一橋大名誉教授・政治学)

◆象徴制後も「元首」と過大視

 コロナ緊急事態宣言下の東京五輪開会宣言は、大会名誉総裁の天皇が発した。それは五輪憲章では開催国「元首」の仕事である。日本国憲法の象徴天皇制と、対外的な国家元首、エンペラーの機能は、時に矛盾をはらむ。

 本書が描くのは、副題「日中関係史の中の『天皇』」とあるように、現代中国の建国の英雄毛沢東と、帝国日本の大元帥から戦後は象徴として国民統合の中心になった「制度としての天皇」の関係である。「ミカド」については、『昭和天皇実録』を読み込み、『佐藤栄作日記』等で裏付けた。戦後も天皇は中国との関係に気を遣(つか)い「和解」を求めていたという。

 「マオ」の方も、抗日戦から文化大革命にいたる毛沢東の日本観・天皇観の変遷ばかりでなく、中国国民党の蔣介石をも第一次資料「蔣介石日記」で検証する。毛沢東のまわりの潘漢年、周恩来らも目配りされる。毛沢東のもとで天皇制と天皇の半宗教的役割を区別した日本共産党野坂参三の見方は、一方で米国外交官エマーソンらを通じて米国の天皇利用政策、日本国憲法の象徴天皇制と東京裁判不訴追に通じた。他方で米ソを含む連合国の日本国民に選択を委ねる態度は、中国国民党にも共産党にも作用し、一時は「戦犯リスト」の第一に挙げた天皇をはずし、むしろ「国家元首」としての天皇外交や「お言葉」を求めた。

 中国側「戦犯リスト」の分析は圧巻で、著者は「戦後日中関係において日本は天皇を『象徴』と過小視し、中国は『元首』と過大視した」という。天皇の戦争責任と日本国家の戦争責任は、異なるが重なる。台湾問題で再び緊張する今日の日中関係では、象徴として残された天皇制が二十世紀日本の戦争責任を想起させる。日本が象徴天皇制を存続する限り、中国側の「元首」扱いは引き継がれる。

 実証的歴史学を基礎に、インタビューや人物を描くジャーナリズムの手法、それに最新のインテリジェンス・情報戦研究を加味して、私たちは昨年の春名幹男『ロッキード疑獄』に続く、現代史研究のユニークな成果を得た。

(白水社・3080円)

1969年生まれ。時事通信社中国総局特派員などを経て北海道大教授。『中国臓器市場』。

◆もう1冊

石川禎浩著『中国共産党、その百年』(筑摩選書)

中日新聞 東京新聞
2021年8月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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