<東北の本棚>防災は暮らしの延長に

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

東日本大震災からのスタート

『東日本大震災からのスタート』

著者
東北大学災害科学国際研究所 [編集]
出版社
東北大学出版会
ジャンル
総記/総記
ISBN
9784861633577
発売日
2021/03/18
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>防災は暮らしの延長に

[レビュアー] 河北新報

 学問研究における東日本大震災の教訓を総合的に捉えた。地震観測や復興まちづくり、防災・減災教育など計51のアプローチに上る。震災10年の節目に、東北大災害科学国際研究所の知見を結集した。
 震災当時は海底地殻変動の観測が軌道に乗り始めた時期で観測点が少なく、緊急の対応に十分とは言えなかった。観測は震災後に精力的に取り組まれ、大津波が予想される南海トラフのプレート観測などが進む。津波警報の発出にも、衛星利用測位システム(GPS)波浪計に加え、海底津波計のような手法が用いられるようになった。
 東日本大震災からの復興は、人口減少時代に持続可能なまちづくりが求められる転換点だった。後背地を堤防と同じ高さまでかさ上げすることで海の眺望を確保し、安全性と地域の魅力を両立させたケースを挙げる。孤独死が頻発した阪神・淡路大震災の教訓を受け、住民が相互に交流できる住まいを目指した共助型災害公営住宅の取り組みも紹介されている。
 阪神の経験で問題意識が高まったメンタルヘルスは、原子力災害を想定していなかった。住民に影響を与え続ける東京電力福島第1原発事故は、収束が見えない点で新型コロナウイルス禍にも類似し、特殊災害への備えの必要性を指摘する。
 各分野の研究者は震災によって明らかになった課題と従来の「常識」を総括し、災後の研究の道筋を模索している。絶え間ない学の積み上げが、繰り返す災害への対応に期待される。同時に、地域に根差した防災教育の研究者が「防災とは自分たちの暮らす地域の自然と暮らしを知ることであり、日常生活の延長にある」と呼び掛ける問題提起は、社会を構成する私たち自身のテーマである。(会)
   ◇
 東北大学出版会022(214)2777=3300円。

河北新報
2021年8月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク