「ネオ・チャイナリスク」研究 ヘゲモニーなき世界の支配構造 柯隆著 慶応義塾大学出版会

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「ネオ・チャイナリスク」研究

『「ネオ・チャイナリスク」研究』

著者
柯 隆 [著]
出版社
慶應義塾大学出版会
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784766427479
発売日
2021/05/08
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

「ネオ・チャイナリスク」研究 ヘゲモニーなき世界の支配構造 柯隆著 慶応義塾大学出版会

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

独裁・強権の弱さ指摘

 コロナ後の世界を見通すと、中国問題が中心テーマの一つとなりそうな気配である。本書は中国の抱えるリスクが新たな段階に入ったとの観点から、それを「ネオ・チャイナリスク」と呼び、その現状を明快に分析している。中国で言論封鎖が強まり、海外に暮らす中国人の多くが心理的圧迫を感じている。著者は日本の論壇で活躍する中国人エコノミストだが、勇気をもって政治問題を含めて直言している。

 新たなリスクとしては、まず独裁的強権制度の脆弱(ぜいじゃく)性がある。後継指名制度のない中国では、長老や幹部の特権の維持こそが重要な関心事だという。現在の指導者たちは文化大革命の紅衛兵世代であり、彼らには国際的見識が足りない。中国社会は制度でなく人間関係で動いており、個々の利益の互恵で成り立っている。

 著者によれば、大胆な市場開放に踏み込めず、党支配強化のために統制経済に逆戻りしている限り、中国経済の成長は望めない。特に成長を牽引(けんいん)してきた民営企業への締め付けは大きな経済リスクである。また中国のハイテク産業は外国企業が主導しており、実利第一の中国社会では基礎研究に取り組む人材が少ない。著者は中国の技術力の限界を指摘する。

 2つの体制で暮らした著者は自身の経験なども織り交ぜながら、本書のなかに教訓をちりばめている。「プロパガンダから権威など生まれてこない」、「常識はその社会環境によって非常識に変わる」、「世界と共有できる価値観、文化、文明がないと、世界のリーダーにはなれない」、「文化と文明が発達する条件として、自由がなければならない」等々。実体験から滲(にじ)み出る著者の言葉は重い。

 本書における著者の正直な叫びは、祖国の将来を案ずるがゆえのものである。本書は、同じような国際派の立場にありながら声を上げることのできない国内の多くの同胞たちへの応援歌のようにも思えるのである。

読売新聞
2021年8月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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