消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神 橋本努著
[レビュアー] 森永卓郎(経済アナリスト)
◆脱・消費依存シンプルに暮らす
グローバル資本主義の拡大は、とてつもない格差と地球温暖化に伴う環境破壊を通じて、人と地球を壊してしまう。多くの学者や評論家がそう警告し、私自身もそう言い続けてきた。しかし、資本主義の代わりになる経済社会システムの具体的なデザインは、これまで十分に描かれてこなかった。ところが、すでに多くの人がその答えに気づき、実践していることを本書は教えてくれる。答えは、消費ミニマリズムだ。
消費ミニマリズムとは、消費依存から脱し、シンプルに暮らすライフスタイルのことだ。例えば、資本主義の下では、利益追求のためにファッション業界が流行を作り出す。流行遅れの服は着られないと大量の服が捨てられる。消費者は新しい服を買うために余計に働き、生産国でも低賃金の重労働が課せられる。さらに製造段階や大量廃棄を通じて環境が破壊される。そうした資本主義の罠(わな)から抜け出す取り組みの一つが消費ミニマリズムだ。
本書は立派な学術書だ。しかし、一般の学術書とは一線を画する。それは、これまでのミニマリズムの理論や実践を論文だけでなく、雑誌やブログまで広げて徹底的にサーベイし、それをきちんと整理しているからだ。カビの生えた論文を集めて、重箱の隅をつつくような無味乾燥の学術書とは、まったく異なるのだ。典型が「こんまり現象」をきちんと分析していることだ。「ときめくものだけを残す」という近藤麻理恵氏の断捨離が世界的なブームになったとき、私はブームの理由がわからなかった。しかし、それがミニマリズムの第一歩と考えれば、ブームの納得がいく。
そしてもう一つ、本書の重要な指摘は、スマホの普及が、ミニマリズムをやりやすくしているという事実だ。スマホ一台あれば、音楽を聴くのも、作曲や楽器の演奏も、読み書きも、何でもできてしまう。つまり、モノを所有する必要が大幅に減るのだ。
ミニマリズムが認知されるようになって、まだ十年たっていないなかで、本書は脱資本主義の方向性を明確に示した好著だ。
(筑摩選書・1980円)
1967年生まれ。北海道大教授。著書『経済倫理=あなたは、なに主義?』など。
◆もう1冊
近藤麻理恵、スコット・ソネンシェイン著『Joy at Work 片づけでときめく働き方を手に入れる』(河出書房新社)。古草秀子訳。