いろんな光景が見える十八作の「短いが広い文」

レビュー

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kaze no tanbun 夕暮れの草の冠

『kaze no tanbun 夕暮れの草の冠』

著者
西崎 憲 [著]/青木 淳悟 [著]/円城 塔 [著]/大木 芙沙子 [著]/小山田 浩子 [著]/柿村 将彦 [著]/岸本 佐知子 [著]/木下 古栗 [著]/斎藤 真理子 [著]/滝口 悠生 [著]/飛 浩隆 [著]/蜂本 みさ [著]/早助 よう子 [著]/日和 聡子 [著]/藤野 可織 [著]/松永 美穂 [著]/皆川 博子 [著]
出版社
柏書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784760152834
発売日
2021/06/29
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

いろんな光景が見える十八作の「短いが広い文」

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 コンサートホールで迷い込んだ不思議なorchestra pit。アフリカでハイエナに屍肉を喰われる人生を予見する男。ドルトンの法則を文章に適用する秘法。編み物をする人。近所の池で野生のペリカンと遭遇する少女。殺人事件が多発する町の自慢の中央公園。娘に「たうぽ」という名を与えた母。白いくつをはいて姿を消した女の子。旅行記以前のハワイ旅行記。ロミオとジュリエット異譚。未来から過去に向かって進んでいく世界。死んだように静かな時間が流れる島で、人工歌唱を完成させようとしている旅人にピアノを習う少女。安全安心なゼリーの繭に包まれ、どこかちがう世界の夢をみる女性。幽霊が見える高柳くんに自分の世界を壊され、その後救われる男子中学生。英語を教えてくれる夢。父の郷里を歩きながら過ぎた時間と再会し、自分の記憶間違いによって意想外の救いを得る、もうすぐ父になる男。カルト集団との遭遇によって、忘れようとしていた絶望を突きつけられる男。詩歌に描かれる老人ホーム。

 いろんなところに行って、いろんな人に会った。いろんな光景を見た。いろんな考えに触れた。そんな充足感が得られるアンソロジーが『夕暮れの草の冠』だ。「小説でもエッセイでも詩でもない、ただ短い文。しかし広い文」というリクエストに応えた十七人の書き手による十八作品を収録。当然ながら作風はバラバラで、それぞれがそれぞれにユニークだったり、滋味深かったり、恐ろしかったり、可笑しかったりといった独自のたたずまいを見せてくれる。

 編んだのは西崎憲。小説家であり、翻訳家であり、音楽家であり、日本翻訳大賞の設立者でありと、文芸界きってのマルチタレントだ。アンソロジストとして素晴らしい目利きでもあることを示す本書は、「kaze no tanbun」シリーズの第三弾にあたるので、気に入った方は先行二作品も是非。好きな文筆家を見つけるにも絶好の三冊にちがいない。

新潮社 週刊新潮
2021年8月26日秋初月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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