『女が死ぬ』
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インパクトのある強いタイトルで時流をうまく捉えた「文庫化」作品
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
文庫化の判断基準は版元によってバラバラで、かつてのように「何年経ったら」あるいは「何冊売れたら」といった数字が明確に決められているわけではないのだという。ハードカバーという体裁であり続けるほうが、良い意味でターゲットが絞られるため結果的に長く売れることもある一方、文庫化のタイミングで思いきって印象を変えることで、時流にうまくマッチすることもある。
松田青子『女が死ぬ』は、まさに後者のケースの筆頭といえるだろう。今年5月に発売されるや発売一週間で重版が決定。その後もハイペースで売れ続け、4刷となった現在も各所で話題をさらっている。
本書はもともと『ワイルドフラワーの見えない一年』(河出書房新社)というタイトルで2016年に単行本として刊行されたものだ。ウィットに富んだ言語実験のような作品から、SF、ファンタジー、B級ホラー風味の作品まで、実にバラエティ豊かな五十三篇の掌篇が収められている。
「文庫化に際して一番のポイントを挙げるなら、やはり表題と装丁です。文庫サイズの表紙でも映える、切れ味のいいタイトルが合うと思いました。なにより短篇集や掌篇集は各作品のあらすじを紹介するとかえって一冊の印象が散漫になる恐れがあるので、全篇に通底するメッセージを掬いつつ、強いインパクトを残す表題がいいと思ったんです。装画も、女性をめぐる差別や抑圧に対してのアンチテーゼとなるよう、タイトルとは逆説的な〈全く死ななそうな女の子〉を描いて頂きました」(担当編集者)
表題作は、フィクションにおける「女」のご都合主義的な扱いを、リズミカルな語り口で徹底的に解体していく快作。2019年にシャーリイ・ジャクスン賞の候補になり注目を集めた。これも追い風となった。
「ジェンダーをめぐる人びとの意識は近年大きく様変わりしました。本書の作品群は、いずれも既存の固定観念を著者のユーモアとセンスで見事に転覆させ、読む人の心の澱みも一掃します。現代社会の枠組みに不満が高まる今こそ響く力があると思います」(同)