一人称私立探偵小説の本質を教えてくれた都筑道夫の連作短編集

レビュー

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  • 酔いどれ探偵/二日酔い広場
  • 紙の罠
  • なめくじに聞いてみろ 新装版
  • 吸血鬼飼育法 完全版

書籍情報:openBD

一人称私立探偵小説の本質を教えてくれた都筑道夫の連作短編集

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 孤独と非情を生み出す都市の姿を浮き彫りにする。それが一人称私立探偵小説の本質であることを教えてくれた作家が、都筑道夫である。『日本ハードボイルド全集6 酔いどれ探偵/二日酔い広場』は、私立探偵小説分野における都筑の代表的な連作短編集を二つ収めたものだ。

「酔いどれ探偵」は米国の作家エド・マクベインが別名義で発表した私立探偵小説シリーズを書き継いだ作品である。主人公のクォート・ギャロンは妻と親友の浮気現場を目撃し、彼らを拳銃で殴り倒そうとしたために私立探偵の認可証を取り上げられ、今は落ちぶれて無免許探偵として活動している。どん底を味わった人間が心に傷を抱えながら、事件解決のために大都市ニューヨークを駆け巡るのだ。テンポの良い活劇描写の合間に、過去に囚われた男の苦悩が綴られ、寂しさを誘う。

「二日酔い広場」の主人公、久米五郎も妻子を交通事故で亡くしたという暗い過去を持つ私立探偵だ。東京の下町を歩き回る彼は、調査の中で人間同士の断絶がもたらす悲劇を目撃する。分かりたくても分かり合えない悲しさが沁みこんでくる小説だ。

 都筑道夫は私立探偵小説以外にも本格謎解き、ホラー、SFなど、様々なジャンルを横断して活躍した、多芸多才な作家である。アクションを基調とする犯罪小説でも多大な功績を残しており、特に『紙の罠』(ちくま文庫)と『なめくじに聞いてみろ』(講談社文庫)の二作は、奇想天外なアイディアを盛り込みつつ、アタック&カウンターの骨法を駆使した国産活劇小説の名作である。

 都筑はシリーズキャラクターの創造に余念がない作家でもあった。なかでも『吸血鬼飼育法』(ちくま文庫)に登場する片岡直次郎の軽妙洒脱ぶりは楽しい。どんな難題でも解決することを標榜する直次郎が、「警官隊の包囲から強盗殺人犯を脱出させて欲しい」といった奇妙な依頼をこなすのだ。この他にも個性際立つキャラクターを多く生み出しているので、ぜひとも復刊が進んで欲しい。

新潮社 週刊新潮
8月26日号秋初月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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