ことばに責任を持てば自分に変化が生まれる。発する前に精査しよう

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伝える準備

『伝える準備』

著者
藤井貴彦 [著]
出版社
ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN
9784799327388
発売日
2021/07/16
価格
1,650円(税込)

ことばに責任を持てば自分に変化が生まれる。発する前に精査しよう

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

日本テレビのアナウンサーである『伝える準備』(藤井貴彦 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は日々、自分のことばがどんな印象を与えるかを精査しながら発言しているそうです。

大切なのは「発する前に精査すること」であり、それは「ことばの準備」ともいえるのだとか。

しかし、ことばの力だけに頼っていると、誤解や摩擦が起きやすくなることも事実。とくに新型コロナウイルスが流行してからは他者への批判が渦巻き、ささくれだったことばで他人を傷つけてしまいやすくなっているのではないでしょうか。

パンデミックから抜け出したいという思いは、誰しも同じであるはずなのに。

でも、そこから抜け出す手段もあるようです。

ほんの少し伝える準備をするだけで、少なくとも自分の周りの雰囲気は変えられます。その雰囲気が各所で広がれば、批判や暴言を減らせるはずです。

何気ない瞬間に発する言葉、準備なく使用した言葉がどんな影響を与えるかについて考えてほしいと思って、本書を書き始めました。(「はじめに」より)

ちょっとした「伝える準備」によってコミュニケーションの質が変わり、相手との関係性にも好影響を与えるとのこと。

今回は3章「自分の言葉を、相手に伝える」のなかから、「すべての反応に責任を持つ」についてクローズアップしてみたいと思います。

自分の発したことばに対するすべての反応に責任を持つ

発することばであっても、書いた文章であっても、それを受け取る人の反応は多種多様。賛同してくれたり肯定してくれたりする人がいる一方、違和感を覚えたり、批判したりする人もいます。

そのため、「全員の反応なんて気にしていられない」と思いたくなることもあるかもしれません。しかし忘れてはならないのは、その反応の起点となったのは、他でもない自分の発信だということ。

たとえば、自分の発言によって思わぬ誤解が生まれてしまったというようなことはあるものです。しかしそんなとき、「そういうつもりで言ったんじゃない」と各人に説明をするのは大変な作業。SNSでの発言の場合は修復が不可能ということもあるでしょう。

しかし、そういった誤解を生んだのも自分の発信がきっかけ。相手がとんでもない勘違いをしていたというようなケースを除けば、自分の発言に対する責任は発生して当然だということです。

著者はそう主張していますが、とはいえ「全責任を負ってください」とプレッシャーをかけようというわけではありません。そうではなく、「責任を持つというスタンスを取ることで、自分に変化が生まれる」ということを伝えたいというのです。

そうすれば勢いだけのことば選びは減り、潔い言動が増えてくるということ。

毒舌はストレス解消につながるでしょう。

しかし、それを聞く人たちは、あなたがどういうスタンスで発言したものなのかを、一度探ります。その無駄な手間が、発言者への信頼を薄く削っているのではないでしょうか。(162ページより)

いちばん問題なのは、信頼が薄くなっているということに本人が気づかないこと

そういう意味でも、発言の前に「自分の真意を表しきれているか」「それが相手に伝わっているか」を一度確認することが大切。それだけでも、ことばのチョイスは改善されていきます。(160ページより)

ニュースをただ「読む」のではなく、「伝える」

著者のようなニュースアナウンサーの役割は、記者が書いた原稿を「読む」こと。つまり読んだ瞬間から、その記事の責任を記者と分担することになるわけです。

正確には「そんな気持ちで臨む」ということですが、誤解を生む可能性のある表現に気づき、修正する責任をアナウンサーも負っているといいます。

そのことを説明するにあたり、著者は次の文章を例示しています。

「来年の採用は、専門的な職種に限り、規模を3割縮小する」(164ページより)

この文章は、2通りの解釈ができます。

A 採用は専門的な職種「だけにすることで」、全体の規模を3割縮小

B 専門的な職種の採用「だけを3割縮小して」、あとは今まで通り

(164ページより)

こうした誤解を生まないようにするためには、たとえば

A 来年は、専門的な職種についてのみ採用し、全体規模の縮小を目指す

B 来年の採用は例年通りだが、専門的な職種についてのみ採用規模を3割縮小する

(164ページより)

「こんなふうに言い換えてもいいですか?」と提案することも、アナウンサーの重要な役割だそう。

原稿を書いた記者は、朝早く起きて取材をし、カメラマンに撮影してもらい、本社に戻って編集して、原稿を書き、印刷してアナウンサーに渡します。そんな努力の結晶を「こう変えてもいいですか?」などと簡単には口に出せません。

しかし、努力の結晶だからこそ、きちんと輝いてもらうように提案することが大切。これができるようになるまで成長し、記者にも信頼されるようになったとき、ニュースを「読む」のではなく「伝える」ことができるようになるというのです。

それぞれ立場は違えども、これはアナウンサー以外にも応用できそうな考え方ではないでしょうか?(163ページより)

SNSでのコミュニケーションが一般化した現代においては、会話自体が少なくなっています。とはいえ、ことばを避けて通ることは不可能。だからこそ、著者のアナウンサーとしての経験に基づく本書を役立ててみるべきかもしれません。

どんなことばを、どんなふうに使うかによって、印象は変わるものなのですから。

Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン

メディアジーン lifehacker
2021年8月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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