『もうあかんわ日記』
書籍情報:openBD
もうあかんわ日記 岸田奈美著
[レビュアー] 南沢奈央(女優)
父は中学の時に他界し、母は車いすユーザー、弟はダウン症。岸田家の日々を綴(つづ)った著者の自伝的エッセイ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は記憶に新しい。出版から半年も経(た)たない今年2月、母親が2週間以上も高熱にうなされ、入院。生死をさまよう大手術を行うことになり、著者は実家の留守を預かることに。
実家にいるのは、もの忘れとタイムスリップが進んでしまったばあちゃん、その影響で情緒不安定になってしまった弟、そして荒れる2匹の犬……。「もうあかんわ」。その言葉が心から漏れた3月10日から、37日間書き続けた日記をまとめたのが本書である。
書くことで、今日という日を過去にし、読んでもらうことで、明日を生きる力を得る。書く手を止めなかった著者は根っからの作家だ。ユーモアと芯のある言葉に、こちらは泣き笑い。
愚痴をこぼすこと、弱音を吐くこと、あきらめること。著者自身がさらけ出すことで、そのすべてを肯定してくれる。不幸は「あとから幸せを感じるための貯金」。こんなに人を勇気づける日記があるとは。(ライツ社、1650円)