立原道造 風景の建築 岡本紀子著 大阪大学出版会

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立原道造 風景の建築

『立原道造 風景の建築』

著者
岡本紀子 [著]
出版社
大阪大学出版会
ジャンル
工学工業/建築
ISBN
9784872597264
発売日
2021/04/26
価格
3,960円(税込)

書籍情報:openBD

立原道造 風景の建築 岡本紀子著 大阪大学出版会

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

共鳴する詩作と建築

 詩人、立原道造は、若くして亡くなったため実作数は少ないが建築家でもあった。東大の建築学科に学んでモダニズム建築の理論にふれ、来日したブルーノ・タウトの連続講演も聴いている。建築や美術の最新の動向を深くとらえながら、詩作を続けていたのである。

 それは、仕事と余技を使い分けていたというものではない。立原のなかで詩作と建築とは深く結びつき、たがいに響きあっていた。残された資料の綿密な読解と、立原が関わった地域のていねいな調査を通じて、著者、岡本紀子はそのことを明らかにする。

 生まれた町に近い日本橋の風景を描いた小学生時代(!)のみごとなスケッチには、三越百貨店本館が描かれているが、関東大震災のあとの絵なのに、震災前の姿になっているという。旧制中学の絵画部で描いた絵では、都市の復興の過程で取り壊される建物や、重機を操る人々の姿に注目している。町も建物も、人々がそこで生活することを通じ、つねに変化し続けている。そういう感覚をはじめから身につけていた。

 病に苦しみながら、建築事務所の仕事で忙殺されていた晩年に、廃墟(はいきょ)に残された「石の柱」を語り手とする詩を書き残している。しかしそれは寂寥(せきりょう)感だけではなく、柱が「立たうとする」「ささへようとする」と繰り返すことで、建築と人生、両方にむけた意志を表示していると岡本は解釈する。たしかに家の「台座」が残っているならば、時間の経過とともに新しい家が建ち、再び人々が暮らすこともあるかもしれない。

 晩年の立原は、浦和の地に「ヒアシンスハウス」と名づけた小さな家を建てようと計画していた。その図面を何枚も本書は紹介している。モダニズム建築をふまえながら、住み心地のよさを考えた設計。自然の風景や訪れる友人との交わりを楽しむための細やかな配慮。その構想は立原の詩と同じく、希望の光を穏やかにたたえた、すぐれた作品になっている。

読売新聞
2021年8月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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