生物はなぜ死ぬのか 小林武彦著 講談社現代新書

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生物はなぜ死ぬのか

『生物はなぜ死ぬのか』

著者
小林 武彦 [著]
出版社
講談社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784065232170
発売日
2021/04/14
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

生物はなぜ死ぬのか 小林武彦著 講談社現代新書

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

進化が選んだ「死ぬ個体」

 生物の死に方にはふた通りあるという。ひとつは食べられたりアクシデントに遭ったりして死ぬことであり、もうひとつは寿命で死ぬことである。著者は「進化が生き物を作った」という観点から死を見ようとしている。食べられないようにするため、生物は進化するが、寿命にも進化に関わる重要な意味があるはずだ。著者はそれを老化に見る。「老化という性質を持った個体が選択されて生き残ってきた」。しかし、なぜなのだろうか。

 細胞を老化させることは、細胞が異常になる前に排除し、新しい細胞と入れ替えることになり、それはがん化のリスクを抑えることになるからだ。ちなみに、新しい細胞を供給するのは幹細胞なのだが、その幹細胞自体も老化する。そうなると、個体自体が老化し、やがて死へと導かれる。著者によれば、ヒトの細胞の更新の仕組みは55歳ぐらいが限界だそうで、現在はそれをはるかに超えた長寿を実現したことになる。

 とはいえ、わたしたちは死に対して強い恐れや感情を有しており、進化によって「死ぬ個体」が選択されてきたと説明されても、すぐには得心できるものではない。それに対して著者は、ヒトが死の恐怖から逃れる方法はない、なぜならその恐怖はヒトが「共感する感情」を有し、他者との繋(つな)がりによって生きることから生じるからだと言う。もしそうであれば、「共感する感情」もまた進化の産物であるということだろう。

 死はすべての生物にとって、次の世代が居場所や食料を獲得するために必要なものである。だが、現在、ヒトが主に引き起こしている生物の大量絶滅は、次世代の多様性を根こそぎにし、悲惨な未来を開くものだ。著者はそれを食い止める努力が必要だと述べる一方で、最悪のシナリオも冷静に提示する。そこでは、ヒトが絶滅しているかもしれないし、「元人類」なる別の生き物として生き残っているかもしれない。長寿を獲得したヒトは次の世代のためにより多く貢献すべきであるが、その知恵を是非、大量絶滅阻止のために使い尽くしたいものである。

読売新聞
2021年8月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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