本人と息子が刺されたことも 「山口組」記者の危険な取材体験

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

喰うか喰われるか 私の山口組体験

『喰うか喰われるか 私の山口組体験』

著者
溝口 敦 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065221044
発売日
2021/05/17
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

本人と息子が刺されたことも 「山口組」記者の危険な取材体験

[レビュアー] 尾島正洋(ノンフィクションライター)

 溝口敦さんの名前を知ったのは一九九五年の夏だった。私はこの年に産経新聞社会部の警視庁記者クラブで経済事件と暴力団犯罪の取材を担当することになった。地下鉄サリン事件などを引き起こしたオウム真理教が大々的に摘発された年だったが、一連の事件を横目に、「暴力団の取材といっても、さてどうするか」という状態だった。

 参考になる書籍にまず当たるべしと、東京・神田の大型書店を訪れた。事件のコーナーには、暴力団に関する書籍が何冊も並んでいた。数冊を手に取りページをめくり、溝口さんの本を一冊、購入することに決めた。

 それが彼の第一作『血と抗争』だった。国内最大の暴力団にのし上がった山口組の三代目時代を描いたノンフィクションの迫力に魅了された。一九六八年の作品のため、すでに三十年近くが経過していたが、私にとって「山口組とは、暴力団とは」を知るための最適なテキストとなった。今や読み継がれる古典と言っても差し支えないだろう。

 読み終えると、すぐに別の溝口さんの著作を買い求め、さらに次々と読み進めた。短期間で私の自宅の書棚の一画に、「溝口コーナー」が出来上がった。

 この最新刊も発売直後に読了した。タイトルに面食らったが、内容はこの通り特異なというより危険を伴った取材体験がつづられている。大学卒業後、アサヒ芸能出版(現・徳間書店)に入社したが、退社してフリーに。ヤクザ関係以外の執筆についても、活動経歴が自伝的に記されている。ただ、やはり真骨頂は山口組。

 一九九〇年に出した五代目山口組組長についての著作では、組側から出版の直前に停止を要求されたが、「中止要求を飲めばもの笑いのタネだ。こっちはライター生命がなくなるんだよ」と電話を叩き切った。だが、約二カ月後に刺された。さらに、二〇〇六年には長男も刺された。

 山口組については、四代目組長の座をめぐる史上最悪の暴力団抗争となった「山一抗争」(一九八四年~八九年)と五代目時代の「宅見勝若頭射殺事件」(一九九七年)、さらに現在も続いている「六代目山口組分裂による対立抗争」(二〇一五年~)が三大事件とされている。

 溝口さんはこのすべてを取材している。改めて言うまでもなく第一人者だ。

 小説家を志す人は、夏目漱石や芥川龍之介という名前を忘れることはないだろう。私は初めて氏の著作を手にした日から、「溝口敦」という名前を忘れたことはない。

新潮社 週刊新潮
2021年9月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加