『日本人はもっと幸せになっていいはずだ』
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著者名から漂う先入観にフロント・スープレックス!
[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)
パイプを咥えたハードボイルドなアップに、このタイトル。帯には「慟哭!」の文字。プロレスラー・前田日明が日本という国を憂えて出した本書。この表紙を見ただけで、殆どの人は「あ、プロレス本」と失笑し、スルーしてしまうと思う。
まえがきにも、コロナ禍に苦しむ経営者たちの辛苦に思いを寄せる部分で、「俺もUWFの時に散々味わったから骨身に染みてよくわかる」なんて書いてあり、「やっぱりプロレス本」と、半笑いで読み始めたのだが。
竹島や尖閣などの国防から、スパイ防止法や外国人土地法の不備、外国人参政権反対の理由などを挙げて法律論を、経済では財政均衡論の根幹的間違いを。日本が抱える様々なジャンルの大問題について、原因を真芯から捉えて白日の下に晒す。その論調に、プロレス的な根性論は皆無。どころか、TPPに向け日米で交わされた要求書の原題の訳し方の微差から、外交の跼蹐っぷりをあぶり出すなど、そこらの学者顔負けの論及力。読み進めるうち、半笑いはすぐ引っ込んだ。
今の政治が腐敗し、国民と向かい合わなくなったきっかけを、サンフランシスコ講和条約へ遡って紐解くあたり、「そこまで言って委員会」なんかでも論じられている話であるが。在日韓国人から帰化した著者が、そこらの日本人より、日本の問題を真剣に憂え、解決しようとしている。その姿勢には素直に頭が下がる。安倍前首相に憲法改正と言われても聞く耳持てなかった人も、これ読んだら考えるきっかけになるかも。
そもそも「日本をどうすればよくできるのかは、それほど難しい話じゃない」と説く著者。原因は提示されている。そこに対処すればいいだけ。なのにそれをしない政治家、官僚、経済界、そしてマスコミ。全ての問題に不感症となっている我々も同罪だとも。すいません。まさか前田日明に頭を垂れる日が来ようとは。
今、著者が特に憂えているのが「南海トラフ地震」対策。高確率で起こる未曾有の災害に、全くの無策の政府が即すべきことを具体例を挙げ次々提案している。この本、すぐ霞が関に回した方がいいと思う。半笑い防止に、著者名だけ伏せて。