熱量満点の近未来SFの根幹にあるのは「この世界」の成り立ちにまつわるミステリー 月島総記『小説 BATTLE OF TOKYO vol.2』

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小説 BATTLE OF TOKYO vol.2

『小説 BATTLE OF TOKYO vol.2』

著者
月島 総記 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041026489
発売日
2021/07/16
価格
704円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

熱量満点の近未来SFの根幹にあるのは「この世界」の成り立ちにまつわるミステリー 月島総記『小説 BATTLE OF TOKYO vol.2』

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

■物語は。

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■『小説 BATTLE OF TOKYO vol.2』月島総記(角川文庫)

熱量満点の近未来SFの根幹にあるのは「この世界」の成り立ちにまつわるミステ...
熱量満点の近未来SFの根幹にあるのは「この世界」の成り立ちにまつわるミステ…

 二〇一一年以降に活動を始めた「Jr.EXILE世代」と呼ばれる、LDH所属のGENERATIONS、THE RAMPAGE、FANTASTICS、BALLISTIK BOYZ。四グループ計三八人のメンバーが別名を持ちアバター化して、「超東京」なる別世界で覇権を争うエンターテインメント・プロジェクト「BATTLE OF TOKYO」(以下、BOT)が本格的に動き出した。今年二月に「原作」と位置付けられた小説版が刊行、六月にはCDアルバムがリリースされ、3DCGを駆使したミュージックビデオも話題を呼んでいる。
 本プロジェクトの最大の魅力──LDHが過去に手がけたプロジェクト「HiGH&LOW」との最大の違い──は、BOT内でのキャラクターの名前やプロフィール、バトルのスタイルなどを、メンバー自身に考えさせたことにある。四グループの個性や関係性を仮想世界に反映させることはもちろん、「自分が主人公。自分こそ最強!」のノリで膨らみに膨らんだ三八名分の想像力をビッグデータとして取り込むことで、唯一無二にして熱量満点のエンターテインメントとなったのだ。
 前巻から五ヶ月という短いスパンで刊行された『小説 BATTLE OF TOKYO vol.2』では、テレビアニメの脚本なども手がける小説家・月島総記の技芸とバランス感覚が強く印象付けられた。「コピー」のスキル(異能)を持つ怪盗団・MAD JESTERSのド派手な盗難事件をきっかけに、「プロテクト」のスキルを使う用心棒組織・ROWDY SHOGUN、イリュージョン集団・Astro9(スキルは「コンバージョン(変換)」)、ハッカーチーム・JIGGY BOYS(スキルは「スキャニング」)がお互いの存在に気付き、小競り合いへと発展する。最強同士が対決したならば、必然的に現れる結末は「引き分け」だ。ともすればワンパターン化しかねない一つ一つのバトルを、スキルごとの弱点の存在やキャラクターの組み合わせによって「接戦」へと練り上げていることがまず、すごい。
 とはいえ、異能バトルものとしての魅力が完全開花した本巻でもっとも興奮したのは、BATTLEではなくTOKYOにまつわるエピソードだった。小説は、書かれていない部分を読み手が想像で補っていく表現メディアだ。その想像には、読み手にとっての「当たり前」が反映されている。優れた小説は、その思い込みを突く。例えば本巻では、あるキャラクターが一般人の少女に「君は本物の太陽を見た事はあるかい?」と尋ねる場面がある。返事は、「な、ないよ。空に投影された映像しか」。この情報自体は、前巻でもさらっと記述されていた。舞台は「大嵐」によるカタストロフ後の近未来だし、そういうものなんだろうなぁと勝手に思っていたのだ。だが── 「僕らもそうだよ。だけど疑問に思った事はないかな……? 五年前の大嵐が起きる前から、この街の空は、人工の巨大構造体に覆われていた。じゃああの構造体は、いつ誰が造ったんだろう?」。それは決して「当たり前」ではなかった。解かれるべき「謎」だった。
『アベンジャーズ』を始めとするSF大作はことごとく、ミステリーでもあるという事実を思い出そう。SFという物語ジャンルは、現実ではお目にかかれないような「バカでかい謎」を、世界そのものに仕掛けてみせる。その一手を、月島総記は本巻において開示した。このシリーズを読み継いでいきたくなる理由が、またひとつ増えた。

■あわせて読みたい

■『錬金術師の消失』紺野天龍(ハヤカワ文庫JA)

 錬金術師が実在する異世界を舞台にした、特殊設定ミステリーのシリーズ第2巻。第1巻(『錬金術師の密室』)では密室殺人事件の謎が解かれるとともに、キャラクターの秘密が明かされたが、本巻では連続殺人事件の解明の先で、異世界そのものにまつわる謎が不意打ちで現れる。これもまた、「最後の一撃」。

KADOKAWA カドブン
2021年08月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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