バレット博士の脳科学教室7 1/2章 L・F・バレット著 紀伊国屋書店

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

バレット博士の脳科学教室 7 1/2章

『バレット博士の脳科学教室 7 1/2章』

著者
リサ・フェルドマン・バレット [著]/高橋 洋 [訳]
出版社
紀伊國屋書店出版部
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784314011839
発売日
2021/05/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

バレット博士の脳科学教室7 1/2章 L・F・バレット著 紀伊国屋書店

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

身体予算 管理する脳

 いきなり『脳は考えるためにあるのではない』と強烈なインパクトだ。そうではなくて「健康な生活を営むために身体予算を管理する」、すなわち、「エネルギーの需要が生じる前に<予測>」し「必要な動作を効率よく」行うために存在する。これが本書の基本的な考えである。

 次いで、『あなたの脳は(3つではなく)ひとつだ』と説き伏せられる。人間の脳は、生存本能を宿す「爬虫(はちゅう)類脳」、哺乳類から受け継いだ情動的な「大脳辺縁系」、そして、ヒト特有の理性的思考の源泉である「新皮質」の三つの層から成る。これはよく知られている説だし、私も信じていた。しかし、バレット博士によると、この「三位一体脳」説は「科学界でもっとも成功して拡(ひろ)まった間違いのひとつ」にすぎない。

 次々と驚くような話が続く。『脳はネットワークである』というのはもちろん正しい。しかし、それは、幼少期の外部環境に応じて繋(つな)がれ、刈り込まれることにより作られる。言い換えると『小さな脳は外界にあわせて配線する』というのはご存じだろうか。さらには、身体予算管理のために、『脳は(ほぼ)すべての行動を予測する』ことができるとまでいうのである。

 二重括弧内の文章は71/2個のレッスンのタイトルだ。さらに『あなたの脳はひそかに他人の脳と協調する』、『脳が生む心の種類はひとつではない』と続き、それぞれ、身体予算の相互調整役としての言語、文化と「心の多様性」といった、より高度な脳の機能が最新脳科学の研究成果を使いながら巧みに説明されていく。

 最終章の『脳は現実を生み出す』では、脳は単に自分の中に閉じ込められたものではなく、他者や社会に開かれた存在であることがわかる。我々は物理的現実というより、むしろ脳内にある「社会的現実」の世界に生きているのだ。

 脳科学研究は、自らのよりよき理解だけでなく、社会的生活にも影響を及ぼすのではないか。そんなことまで考えさせられた。高橋洋訳。

読売新聞
2021年8月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加