エスペラント 大類善啓著
[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)
ユダヤ系ポーランド人ザメンホフが19世紀末に発表した世界共通語エスペラント。彼の理念は国家、民族、宗教の違いを乗り超えた新しい世界を獲得することだった。
日本におけるエスペラント受容史に焦点を当てた本書の中心をなすのは、日本の個性的なエスペランティストたちの列伝である。普及活動に長年携わってきた著者の強い共感が伝わってくる。
エスペラントが日本に入ってきたのは、国同士の分断が深まっていく時代だった。その中でエスペランティストであることは、時流に抗して生きることを意味した。中国人の夫とともに国際主義を掲げて抗日闘争に身を投じ、中国で亡くなった長谷川テルのように、理念に忠実な人生は苛烈なものとなった。
巻末の「なぜ、エスペラントは普及しないのか!?」という著者と言語学者との対談も興味深い。
地球環境問題など、世界が共通課題の解決に向かっている今こそ、エスペラント普及のチャンスかもしれない。世界のエスペランティストたちが培ってきた強固な絆が希望を示している。(批評社、1870円)