吃音の克服で学んだ「言葉」の大切さとタフな闘争心を培った毀誉褒貶の人生

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バイデンの光と影

『バイデンの光と影』

著者
エヴァン・オスノス [著]/矢口 誠 [訳]
出版社
扶桑社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784594087944
発売日
2021/04/30
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

吃音の克服で学んだ「言葉」の大切さとタフな闘争心を培った毀誉褒貶の人生

[レビュアー] 河野克俊(前統合幕僚長)

 本書はピューリッツァー賞などの受賞歴を持つ著名なジャーナリストが、オバマ元大統領をはじめ、家族や側近、2020年の大統領選挙で民主党指名を争ったライバルたちへの幅広い取材に基づいて、人間バイデン像を光と影も含めて描いたものだ。

 バイデン大統領は、トランプ前大統領との前代未聞の大接戦を経て、21年1月20日に第46代米国大統領に就任した。就任時は78歳2カ月。史上最高齢の大統領の誕生であった。

 私事で恐縮だが、私は副大統領時代のバイデン氏とお会いしたことがある。統合幕僚長だった15年7月、私は米統合参謀本部議長の公式招待を受けて訪米した。その際に副大統領への表敬訪問が予定されていたのだ。ところが予期せぬトラブルが重なって、私の到着が1~2時間ほど遅れることになった。もはや取り止めだろうと思っていたところ、彼から「待っているから来い」との連絡が入った。ようやくホワイトハウスに到着し、当時の佐々江賢一郎駐米大使とともにお目にかかった。

 本書でも触れられているが、彼は若い頃に交通事故で先妻と幼い娘を亡くし、二人の息子も重傷を負う悲劇に見舞われている。折り悪く、私の訪問は彼の長男が病気で亡くなった直後だったが、それでも彼は誠実に対応してくれた。とくに「米国副大統領である自分と、日本の制服トップのあなたが会うことが中国に対する強いメッセージになる」との言葉はいまも印象に残っている。その後に彼が大統領に就任すると、日本では「米国は中国に妥協的になるのでは」との懸念が指摘された。が、私はそうではないと思っていた。

 第2章には、幼少期に同級生から「どもりのジョー」と呼ばれて吃音を馬鹿にされていた話が出てくる。ひどいことだが、若い彼にはこの克服が最大の課題だった。とは言え、田中角栄もチャーチルも吃音だった。政治家の武器は言葉とされる。バイデン大統領も、吃音の克服を通じて言葉の大切さを人一倍感じたのではなかろうか。

 その一方、長男を失ったショックは大きかったらしく、16年の大統領選挙への出馬は諦めている。ところが、トランプ前大統領の登場が彼の闘争心に再び火をつけた。友人は彼を「もっとも不幸な人物は誰かと問われたら、ジョー・バイデンと答えるだろう。一方でもっとも幸運な人物は誰かと問われたら、ジョー・バイデンと答える」と評したという。毀誉褒貶に富んだ人生から、現大統領のタフな闘争心は生まれたのだろう。

新潮社 週刊新潮
2021年9月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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