断絶が生むゴミ地獄
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
筆者がかつて社員寮に住んでいた頃、隣人の部屋に凄まじい量のゴミがためこまれていることが発覚し、大騒ぎになったことがある。仕事のできる、温厚な人柄の先輩であっただけに、その驚きは大きかった。読者の近所にも、ゴミ屋敷らしき家の一軒くらいあるのではないだろうか。
『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』は、著者の笹井恵里子氏自らゴミ屋敷の整理業者に同行し、片付け作業を行なったルポだ。天井まで届くほどのゴミはもちろん、大小便、大量の虫、動物、体液、そして腐乱死体と、ゴミ屋敷の実態は凄絶を極める。部屋の主が認知症であるケースなどもあるが、筆者の隣人同様、表向ききちんとした社会人である場合も少なくない。自室のゴミの山から転落し、頭を強打して亡くなった年収一一〇〇万円のサラリーマンなど、いったいなぜこうなってしまったのか不可解な例もある。
家に物が溢れてしまう要因の一つは、ためこみ症という精神疾患であるという。背景は人によって様々だが、死別や離婚などをきっかけに発症することが多い。喪失体験を、物をためこむことで代償しようとしているわけだ。コロナ禍による孤独がこれを加速しており、誰しも無縁ではない。
本書ではためこみ症の治療や、整理業者の選び方まで広く触れられている。身の毛のよだつような描写と、著者の温かい視線で、現代の一断面が描き出された。令和の傑作ルポルタージュここにありだ。