『日本映画作品大事典』
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栄光と没落の歴史が千ページにわたって展開
[レビュアー] 都築響一(編集者)
少ない小遣いを握りしめ映画館に通うようになってから50年以上。学校ではなく本とレコードと映画が人生の師だったし、編集者が仕事だから高価な本を買うのに躊躇はないが、それにしても! 三省堂創業140周年記念として世に出た本書は刊行記念特別価格でも4万円を超える。久しぶりに予約注文をポチる指に力がこもった。
『日本映画作品大事典』の名にふさわしい大判1072ページの偉容。「日本映画の父」牧野省三の『本能寺合戦』(1908年)から2018年まで、収録作品数約1万9500本、監督数約1300人。編者・山根貞男のもと約50名の執筆陣が集結、二十数年の苦闘の末に実現したという日本映画史に残る偉業である。特設サイトで山根さんは「企画が動きはじめたときは長くても4、5年でできるだろうと漠然と思っていた」と語っているが、版元の三省堂はもしかしたら創業120年とか130年記念として企画をスタートしたのだろうか。歴史に残る事典というのはみなそういうものかもしれないが、編者・執筆者だけでなく、どれほど完成が延びても支え続けた版元の強い意志にも敬意を表したい。
百年以上におよぶ日本映画の歴史が千ページにわたって展開するさまは、長大な史書のおもむきもある。しかも最初の扉から最後の奥付まで、文字数が何十万(何百万?)あるのかしらないが、写真が一枚も入っていない! 映画のポスターやスチルも、俳優や監督の顔写真すら。見栄えの良さに流れる誘惑を断ち切り、ひたすら記録に徹する恐ろしいまでのストイシズムが、本書を「大事典」たらしめている。
生きているうちにすべてのページを読破する日が来るのかわからない。それでもそばに置いておきたい一冊。これはそういう存在だ。データベースであるから、本来は電子版で発表していただきたくもあるけれど。