モノを売るために重要なのは、囲い込みではなく「つながり」だった
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
新型コロナウイルスの影響で経済が揺らぎ、「いまのままではダメ」「根幹的なことから変えていかないと…」というような声を多くの業界で耳にするようになりました。
しかし、マーケティングコンサルタントである『お客様が集まる! 「ぼくだけ」の売り方』(松野 恵介 著、すばる舎)の著者は、そこに疑問を投げかけています。コロナがきっかけになっただけで、もうすでに何年も前からその状態にあったのではないかと。
飲食店や観光業などはコロナで大打撃を受けましたが、たしかに仕事での接待や会社での宴会、社員旅行などは10年以上前から減っています。もちろん他の業界にもあてはまるでしょうし、そもそも2008年を境に人口の減少が始まっています。つまり、すべての需要が減少しているわけです。
では、どうしたらいいのか? この問いに対して著者は、売れるには「つながり」が大切だと断言しています。
売れる店には、その店独自のお客様とのつながりがあるということ。そういう意味ではコロナ前もコロナ中もコロナ後も、本質的な課題は同じだというのです。
こんな時代だからこそ、従来のセオリーや売り方は通用しなくなっています。 「ボクだけ、私だけ」の売り方を考えるときなのです。
(中略) 効率性を考えたり、テクニックで売ろうとしたり、自分が大事にすることをねじ曲げてまで売る必要はない。自分と向き合い、自分がやりたいコト、お客様にできるコトを大切にし、ひと手間かけて人とつながるーー。(「まえがき」より)
そうすれば、結果的に売れるということ。
きょうはそんな本書の「プロローグ お客様を『囲い込む』のではなく『つながる』ビジネスを!」に焦点を当て、お客様との“揺るぎない関係”を築くためにまず考えるべきポイントを確認してみましょう。
お客様を囲い込んでも売れない
以前から「お客様を囲い込むことが経営を安定させる」といわれてきましたが、「囲い込み」はまったく役に立たないことがコロナ禍で明確になったと著者は指摘しています。
しかし、そもそも囲い込みとはどういうものなのでしょうか? これを紐解くと、囲い込みの弱点が見えてくるのだとか。
「顧客の囲い込み」とは、戦略を持って既存顧客を維持して顧客離れを防ぎ、さらには有力な見込み顧客を取り込むこと。売り手の視点で見ればそれは魅力的かもしれませんが、買い手の立場に立ってみれば、囲い込まれたいとは思わないはず。
なぜなら囲い込みは、つなぎ止めるための“手段”でしかないからです。
飲食店でも、しっかりと顧客名簿をつくっているお店はあります。そのなかには、ポイントを付与したり、特典をつけたりして顧客の囲い込みをしているところもあるでしょう。
しかし、そういうお店からコロナ禍にLINEメッセージで「コロナ禍でテイクアウト始めました!」と送られてきたとしても、反応しないのではないでしょうか?
一方、近所で家族ぐるみのつきあいをしている中華食堂がテイクアウトを始めたとしたら、「買ってあげよう」という気分になったりするもの。いわば、そこに囲い込みの弱点があるわけです。
消費者は囲い込みには敏感で、囲い込みをしてつなぎとめていると買ってくれるという買い手の意図はバレバレです。
だから、ポイントや特典はもらうけど、言われるようには買わないよ! というのが本音です。
つまり囲い込みとは、顧客をつなぎとめる手立てであり、つなぎとめるだけでは売れないということを示しています。(31ページより)
したがって、つなぎとめておくことではなく、しっかりとした「つながり」をつくり出すことが大切だということ。
中華食堂の例でいえば、近所にあって家族づきあいをしているその店の店主は、自分や家族のことを知っている。
こちらも店主のことをよく知っているし、家族のことも知っている。だからその店が大好きだし、なにがあっても応援したいと思っているからこそ、「買いたい」ということになるわけです。
ここから見えてくるのは「よく分かってくれているから」「ちゃんと考えてくれているから」「好きだから」「応援したいから」……こんなことが理由になって、つながっているということです。
モノが欲しいから買うというよりは、何らかの“つながり”があるから買うのです。(32ページより)
とくにコロナ禍になってからは、そんな傾向がより顕著になっていると著者はいいます。(28ページより)
「つながる」とはどういうことなのか?
「つながり」には複数の意味がありますが、本書でいうないように近いのは「結びつき」や「きずな」。
たとえば自分自身が客として「つながっているな」と感じるお店や会社を思い浮かべてみれば、わかることがあるはず。
「店主の○○さんが好きだから」
「お店のスタッフがみんな明るいから」
「オーナーの考え方が好きだから」
「あの店に行くと、なぜか元気が出るから」
「何でも相談に乗ってくれそうだから」
「私のコトをいつも考えてくれているから」
「いつも応援してくれるから」 (36ページより)
このように、漠然とした「つながり」ということばのなかにも明確な理由があるわけです。
「○○だから行く」「××だから買う」ということは、この○○や××を明確にして「誰と、どんなつながりをつくり出すか」ということだということ。(34ページより)
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著者はずっと、「モノではなくコトを売れ」といい続けてきたそう。
商品やサービスなど目に見える「モノ」を売る視点で考えるのではなく、お客様のなかにある不安や不満、不便に感じているコトや興味や関心のあるコトに目を向け、「どうすればお客様の役に立てるのか」と、自分たちの“できるコト”を考えて行動すべきだというのです。
たしかにそれは、これからの売り方を考えるうえで重要なことかもしれません。本書を参考にしながら、「ボクだけ」「私だけ」「自店だけ」「自社だけ」の売り方をぜひとも身につけたいところです。
Source: すばる舎