マチズモを削り取れ 武田砂鉄著
[レビュアー] 犬山紙子(コラムニスト)
◆せせこましく残存する差別評
今「立憲民主党が党の女性比率を二〇三〇年までに三割以上を目標」というニュースにぶつかり「ああ、リベラルでさえ女性に居場所がない」と悲観していた。九年後に三割という目標、低すぎないか(衆院各党で自民の女性比率が最低)。この気持ちはこれまで何度も感じてきた。保守的な場はもちろんリベラルな場ですら居心地が悪いのだ。
本書にはそんな私たちの怒りや悲しみがぎゅっと凝縮されていた。編集者Kさんが女性として感じる怒りを元に、武田砂鉄氏がマチズモ(男性優位主義)による弊害を、時に自省もしながら丁寧に考察してゆく。ジェンダーの問題ですら「男性が女性に向けてこんな問題があるんだよ」と解説する構図が溢(あふ)れる中、Kさんの怒りや個人的な体験が主体となっていることが心強い。どの章にも私や、私の友人がそこにいた。
特に頷くのはこの指摘だ。「マチズモと聞けば力ずくで突破するイメージが頭に湧くだろう。(中略)しかし、この社会に残存するマチズモは決して強い力が露出しているとは限らず、もっとせせこましい、できればこのままバレずにいてくれれば、自分たちは心地よくいられるのに、という類いのものも多かった」
「差別は良くない」と言いながらコソコソと差別の構造に加担し続ける。そして、そのせせこましさを指摘すると、逆ギレか、別の問題にすり替える、屁理屈で正当化しようとする。こんなにわかりやすく、政治も役員も人事も男性だらけなのに。「俺だって辛(つら)いんだ」はより弱い立場に向ける言葉だろうか、辛さの構造を作っている方に向けるべきじゃないんだろうか。
これまでジェンダーの問題を考える時「若い女性や娘には同じ思いをしてほしくない」と思ってきた。しかしKさんが最後に記した「一体いつになったら、私たちは楽になるのでしょうか?」を見て、私の話でもあるんだと当たり前のことを思えた。自分のことは諦めていたのだ、それは「女性が自己主張すると叩(たた)かれるから」の先の諦念だろう。
たくさんの男性に読んでほしいと願う。
(集英社・1760円)
1982年生まれ。出版社勤務を経てライター。著書『紋切型社会』など。
◆もう1冊
イリス・ボネット著『WORK DESIGN(ワークデザイン)行動経済学でジェンダー格差を克服する』(NTT出版)。池村千秋訳。