菌の声を聴け タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案 渡邉格、渡邉麻里子著 ミシマ社

レビュー

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菌の声を聴け

『菌の声を聴け』

著者
渡邉格・麻里子 [著]
出版社
ミシマ社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784909394514
発売日
2021/05/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

菌の声を聴け タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案 渡邉格、渡邉麻里子著 ミシマ社

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

訳わからなくても順調

 訳のわからない人というのは、その訳のわからなさ故にうまくいかないことが多そうだ。しかし、中にはうまくいく人がいたりする。単なる運なのか、それとも何らかの理由があるのか。この本にはそれに対するひとつの答えがある。

 いきなり著者・渡邉格のことを「訳のわからない人」というのは失礼かもしれない。しかし、自らのことを「恐ろしくクレイジーな人物像」と称しているのだから許してもらえるだろう。

 亡き祖父から夢のお告げがあり、31歳にして突如パン職人になることを決意。「腐らないパン」はおかしいと考え、自家製酵母と国産小麦だけで発酵させた「菌本位」のパン屋・タルマーリーを房総で始める。そして、3・11を契機に、より良い水を求めて岡山県勝山へ移る。このあたりまでの経緯は、前著『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし』(講談社+α文庫)に詳しい。

 その本が話題になって、テレビにも取り上げられたりしたが、出版後1年、今度は43歳にして天然酵母でビールを造る職人になると思い立ち、鳥取県智頭(ちづ)へ移住する。智頭町は、93%が森林で人口密度が32人/平方kmという相当な田舎だ。うまくいくあてなどない。どう考えても意味不明だが、「とにかくできる!」という思い込みで動き始めた。苦労を重ねたとはいえ、パンとビールのダブル発酵も軌道に乗り始める。

 渡邉格の訳のわからなさは、「みんな同じがいい」ということに対する異議申し立てでもある。通説を疑い、伝統的な方法を打ち破っていく。ただし、その考え方は極めて科学的だ。

 とはいえ、採取したカビが麹(こうじ)菌であるかどうかを知るために「カビを食べる」などという真似(まね)はできそうにない。しかし、そこまでするからこそ「人間よ、もう少し時間に余裕を持て」とか、「もっと大きな視点を持て!」とかいう菌の声が聴こえてくるのだろう。って、こう書いてても、やっぱり訳がようわかりませんけど。

読売新聞
2021年8月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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