沖縄語をさかのぼる 島袋盛世著 白水社

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6
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沖縄語をさかのぼる

『沖縄語をさかのぼる』

著者
島袋 盛世 [著]
出版社
白水社
ジャンル
語学/日本語
ISBN
9784560088944
発売日
2021/05/24
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

沖縄語をさかのぼる 島袋盛世著 白水社

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

千変万化 一つの根から

 奄美・沖縄地方のことばは、日本本土のことばと同系統でありながら、早い時代に枝分かれし、独自の発展を遂げました。この言語を特に「琉球語」と呼ぶ研究者も多くいます。

 本書の題には「沖縄語」とありますが、著者が扱うのは、奄美から与那国に至る琉球地方全般のことばです。これらの島々のことばは互いに大きく異なります。隣の島の人と話しても、まったく意味が通じないこともあるほどです。同じ沖縄本島でも、北部の国頭(くにがみ)語と南部の沖縄語ではやはり違っています。

 日本本土の人にとって、琉球語の全体像を理解するのは困難です。そこで、著者はまず、このうち沖縄語だけを取り上げて、簡単な語学レッスンをしてくれます。もちろん、記述はあくまで言語学的。ここで示される音韻や文法、語彙(ごい)の話は誰かに教えたくなります。

 ところが、別の島に行くと、また話が変わります。「ありがとう」は沖縄語で「ニフェーデービル」ですが、島によって「オボコリョータ」「フガラサ」などと違いがあります。宮古語では「いも」を「mm」と子音だけで発音します。与那国語ではyがdに変化して「ヨナグニ」を「ドゥナン」と発音します。千変万化の琉球語に、思わず途方に暮れてしまいます。

 著者の腕の見せ所はここからです。これほどばらばらに見える島々のことばも、さかのぼって古い形に戻してみると、案外似ているのです。たとえば、「鏡」は島によって「hagan」「kagam」などいろいろに発音されます。でも、hは歴史的にはkが変化したもの、nはmiから変化したもの、と遡及(そきゅう)していくと、結局、古い琉球語では、日本本土と同じく「kagami」と発音していたと考えられます。

 読者は、琉球語の多様性に目がくらんだ後で、島々のことばの根っこが同じであることに深く納得するはずです。著者の手品のような、しかも緻密(ちみつ)な論理の運びに感嘆します。

読売新聞
2021年8月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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