西暦一〇〇〇年 グローバリゼーションの誕生 ヴァレリー・ハンセン著 文芸春秋

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西暦一〇〇〇年 グローバリゼーションの誕生

『西暦一〇〇〇年 グローバリゼーションの誕生』

著者
ヴァレリー・ハンセン [著]/赤根 洋子 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784163913704
発売日
2021/05/13
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

西暦一〇〇〇年 グローバリゼーションの誕生 ヴァレリー・ハンセン著 文芸春秋

[レビュアー] 小川さやか(文化人類学者・立命館大教授)

大航海前 未知との遭遇

 グローバリゼーションはいつから始まったのか。西欧諸国が植民地支配へと乗り出していく大航海時代に遡るか、資本主義経済と欧米出自の価値基準による画一化が進むソ連崩壊後にその端をみる議論が多いだろう。もちろんグローバルヒストリーという歴史学の分野で西欧中心的な世界史が再考されたり、人類学などで草の根のグローバルなフローに光をあてたりする議論はすでにある。ただ、西暦1000年頃に起きた転換をグローバリゼーションと位置づけ、それが大航海時代以降のグローバリゼーションを形づくったとする主張は、なかなか大胆だ。

 本書は西暦1000年の世界に読者をタイムスリップさせる。北欧のノース人(バイキング)は大西洋横断ルートを切り開き、イヌイットが暮らす極北からアメリカ大陸を縦断してマヤ都市まで到達。コロンブスより先に各地の交易路を接続した。またロシアの語源となった、北欧のルーシ人は東へと進み、スラブ人奴隷と毛皮をイスラム圏へと運ぶ交易ルートを開拓。後の東ヨーロッパとロシアのキリスト教化に大きな影響を与えた。アフリカ諸国の支配者や商人の中にもイスラム諸国との取引に機会を見いだす者がいた。アフリカのイスラム教化は現地からも起きた。中央アジアでは騎馬隊やイスラムの元軍人奴隷たちなどの活動を通して、イスラム圏と仏教圏の二大ブロックが形成。マレー半島の船乗りは季節風を利用しマダガスカルまで到達。だがこの当時の最先端は、陶磁器を世界中に輸出し、各地の産物を輸入した中国であった。広州とその後の泉州は、世界中の産物が交易される、当時のグローバル経済の縮図だった。

 西暦1000年のグローバリゼーションも勝者と敗者の世界であり、新しい文化や技術の拡散とともに宗教的分断や文化的軋轢(あつれき)、外国人への攻撃をもたらした。それでも新しいものを受け入れた人々は拒絶した人々よりも大きな成功を収めたのだと著者は言う。未知なる世界へと乗り出していく人々の驚きに満ちた歴史が堪能できる。赤根洋子訳。

読売新聞
2021年8月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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