差別に関わるさまざまな問題を物語に昇華させた芥川賞受賞作

レビュー

5
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彼岸花が咲く島

『彼岸花が咲く島』

著者
李 琴峰 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163913902
発売日
2021/06/25
価格
1,925円(税込)

書籍情報:openBD

差別に関わるさまざまな問題を物語に昇華させた芥川賞受賞作

[レビュアー] 伊藤氏貴(明治大学文学部准教授、文芸評論家)

 これまで女性同性愛を中心に現代の日常をテーマとしてきた李琴峰が、幻想的な世界を描いた芥川賞受賞作。

 とある島に漂着した少女は、記憶のほとんどを失いつつも、その島で話されている言語が自分のそれとかなり似ていることに気づく。

 しかしそれは島で使われる二つの言葉のうちの「女語」と呼ばれるもので、もう一つの「ニホン語」の方はよくわからない。「ニホン語」に対して「女語」という言い方からすると、一見「女語」は周縁的な扱いを受けているようだが、むしろ祭祀と歴史とを司る「ノロ」と呼ばれる女だけが使うことを許された言葉なのだ。「女語」でしか語られない秘密の歴史が島にはある。漂着した少女は「女語」を解する時点で、この秘密に近いところに初めからいた。

 そのためか、「ノロ」にならないかぎり、この島に留まることはゆるされないと宣告される。外部の人間が「ノロ」となってこの島の秘密に触れるとき、はたして何が起きるのか。

 彼女を助ける別の少女と少年とが鍵を握る。二人とも「ノロ」に憧れるが、少年は性別ゆえに夢を断たれる。

「ニホン」「タイワン」「チュウゴク」と呼ばれる国々の狭間で翻弄されてきた島を舞台に、この三人の関係性の中でさまざまな問題がこれでもかと詰め込まれる。たとえば、沖縄、台湾、ジェンダー、同性愛、言語等々、差別に関わる諸問題だ。ただし無意味に羅列されているのではない。重要なのは、一見別々なこの諸問題は、実は根っこで繋がっているということだ。一つだけをとりあげて解決するのは不可能なのだ。

 オリパラによって可視化されたさまざまな差別問題に関して、過剰な非難合戦には辟易するところもあるが、考えなければならないことはたしかだ。皮相で拙速な議論に終始しないためにも、こうして問題に対して豊かに肉付けされた小説を読み、時間をとってゆっくり考えたい。

新潮社 週刊新潮
2021年9月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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