『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』
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立体的に甦るレジェンド作曲家
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
大ヒット曲「ブルー・ライト・ヨコハマ」や「木綿のハンカチーフ」などで知られる、作曲家の筒美京平。昨年10月に80歳で亡くなった。1960年代後半からの約半世紀で、発表した楽曲は約2700曲。ヒットチャートのトップ10入りが約200曲。作曲作品の総売上枚数、約7600万枚は国内作曲家歴代1位だ。
そんな音楽界のレジェンドを語るのに最もふさわしい人物が本を出した。近田春夫『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』である。かつて『週刊文春』に連載した「考えるヒット」でも読者を唸らせた、音楽への直観力と分析力。そこに45年におよぶ筒美との交流から得た実感が加わる。
筒美が生み出すメロディは「すべて丸みを帯びて」いた。そこには「生理的な心地よさ」があり、「官能的な快感」に満ちている。支えていたのはクラシックの「楽典的な素養」と最新の洋楽についての「該博な知識」だと近田は言う。
庄野真代「飛んでイスタンブール」、ジュディ・オング「魅せられて」などが並んだ70年代。松本伊代「センチメンタル・ジャーニー」、小泉今日子「なんてったってアイドル」、斉藤由貴「卒業」などが連打された80年代。しかし、音楽産業のシステム化と弱肉強食化が進んだ90年代、筒美は「時代の音を作る」役割から徐々に離れていく。その潔さも筒美の美学だ。
本書の第2部は作詞家・橋本淳や歌手・平山みきとの対話篇。「人間筒美京平」が立体的に甦ってくる。