「母」と「仕事」の間で引き裂かれる女性の覚悟の行く末は?~壮絶な騙し合いを描くスパイ小説として傑作中の傑作

レビュー

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十三階の母

『十三階の母』

著者
吉川英梨 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575244311
発売日
2021/08/26
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

「母」と「仕事」の間で引き裂かれる女性の覚悟の行く末は?~壮絶な騙し合いを描くスパイ小説として傑作中の傑作

[レビュアー] 浜崎広江(書店員)

 人気ミステリー作家の吉川英梨さんが手がける「十三階シリーズ」では、警察庁の公安秘密組織の女刑事・黒江律子が活躍する。今回は、かねてより吉川作品の読者である「イマショミステリー小説探偵はまさき」こと書店員の浜崎広江さんに、十三階シリーズ第4弾『十三階の母』の書評をお寄せいただきました。

*****

 警察庁の「十三階」に存在する、公安の中でもエリート中のエリートが集められた公安秘密組織の精鋭部隊。黒江律子は、そこで最強と言われる女スパイだ。

 国家をテロや異分子から守るため、黒江は文字通り体を張って任務にあたる。

 黒江を優秀なスパイに育てあげたのは、班長の古池慎一だった。テロリストやカルト教団の教祖など、彼らと壮絶な死闘を繰り返す中で二人の絆は強く深くなっていった。

 前作『十三階の血』で黒江は古池の子供を妊娠する。「スパイ同士の結婚」という衝撃的な結末から、最新作『十三階の母(マリア)』に続く。

 公安警察最大の敗北、北陸新幹線爆破テロを引き起こした団体名を連想させる「イレブン・サインズ」が、黒江の名を騙り十三階に爆発物を送ってきた。

 この事件で、子どもと3人でアメリカにいた古池と黒江は日本に呼び戻されることとなった。

 イレブン・サインズによる新たな新幹線テロ行為が行われるとの情報を入手した十三階は、新人女性警官・鵜飼真奈を投入する。

 彼女は黒江が防げなかった新幹線テロの犠牲者だった。鵜飼だけは十三階に呼んではいけなかったと悔やむ中、彼女を育てる決心をする。

 鵜飼の危なっかしい投入の様子を見守る黒江。鵜飼の行動にハラハラさせられるが、鵜飼も機転をきかせ上手く対象の心を掴む。

 しかし、何が何でもこの投入を成功させるという鵜飼の行動は空回りのようにも見えた。鵜飼の頑張りもむなしく、決定的証拠を掴めないまま投入は終了するが……。

 十三階爆破未遂、怪しいテロ情報で黒江たちを翻弄するのは誰なのか? その伏線は緻密に仕込まれ、黒江たちはその罠に知らず知らずにはまってゆく。その過程が実に巧妙に描かれ、真相に近づくほど面白さと衝撃度が増してゆく。

 このシリーズは壮絶な騙し合いを描くスパイ小説として傑作中の傑作。しかしそれだけではない。騙されつつも「愛」を全うしようとする女性たちの切なさ、哀しみ、憎しみが描かれる。「愛」に翻弄される女性たちの物語もこのシリーズに深みを与えている。

 任務のため愛するわが子と引き離され絶望する黒江。鵜飼の教育を行う過程で、わが子を求める母性と、任務の狭間で葛藤し心が引き裂かれてゆく。その過程が臨場感あふれるタッチで描かれ胸に突き刺さる。

 そんな黒江を献身的に支える夫・古池。

 徐々に壊れてゆく黒江をまるで娘に接する父親のような優しさで黒江の心を癒してゆく。その愛情の深さに読んでいると目頭が熱くなってくる。

 そして、物語は急展開を迎える。十三階を潰そうと、卑劣な手段を講じる者たちがいよいよ表舞台に現れたのだ。

 古池は黒江に言う。「十三階の母」になれと……。

 次々と襲う悲劇・策略に「十三階」は崩壊寸前だ。しかし、黒江はすべての思いを封じ込め、再び戦いに挑む。

 黒江の「母」としての覚悟が、十三階をさらにパワーアップさせてゆくのか? 今後の展開に胸が躍る。

アップルシード・エージェンシー
2021年9月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

アップルシード・エージェンシー

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