ブレイクニュース 薬丸岳著 集英社

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ブレイクニュース

『ブレイクニュース』

著者
薬丸 岳 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087717525
発売日
2021/06/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

ブレイクニュース 薬丸岳著 集英社

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

ウェブで発信 謎の女

 ミステリーの歴史は、魅力的な探偵役=「犯罪がもたらした混沌(こんとん)に発展的秩序を回復する者」の歴史でもある。新鮮でユニークな個性を持ち、その時代の読者から信頼を寄せてもらえるが、どこか謎めいている。そんな人物像が、様々な作品のなかで創造されてきた。

 薬丸岳さんは、これまでいくつもの重厚な社会派ミステリーを世に送り出してきた作家だ。一方で、江戸川乱歩賞受賞作『天使のナイフ』がその代表であるように、血の通った人間ドラマの奥に、周到に計算されたアクロバチックな謎解きを仕込むことができるパズラー作家でもある。そんな実力派が、今もっとも「リアルな現在」を生きる探偵役を造形したら、美しい女性ユーチューバーになった。

 彼女の名は野依(のより)美鈴(みすず)。動画配信サイト上で「ブレイクニュース」というチャンネルを運営、話題の事件や社会問題を取材し、報道番組として配信して人気を博している。本書は全七編の連作短編形式で、第一話では正体も出自も不明の野依美鈴本人を取材しようと、週刊誌記者の真柄(まがら)新次郎(しんじろう)が(デスクからの命令で渋々)腰をあげるのだが、ウェブで発信しているだけの素人と、プロのジャーナリストである自分を「同じにされたくない」と反発し鼻で笑ってしまう。だが美鈴はまったく動じることがない。誹謗(ひぼう)中傷の的にされることも覚悟の上でブレイクニュースを配信し続ける、その志と勇気の拠(よ)り所(どころ)はどこにあるのか。

 胸の痛む児童虐待事件、引きこもりをめぐるいわゆる8050問題、嫌疑不十分で不起訴になったのに、検索で出てくるその報道記事が当事者を苦しめる(まさにネット時代ならではの)冤罪(えんざい)事件。関係者たちと向き合い、その心情に、時には冷酷なほど鋭く切り込んでゆく美鈴。次第に浮かび上がってくる彼女自身の過去。薬丸さんの連作短編集としては、あの『悪党』(角川文庫)に並ぶ読み応え満点の快作だ。

読売新聞
2021年9月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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