「太平洋の巨鷲」山本五十六 大木毅著

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「太平洋の巨鷲」山本五十六 用兵思想からみた真価

『「太平洋の巨鷲」山本五十六 用兵思想からみた真価』

著者
大木 毅 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784040823829
発売日
2021/07/09
価格
1,012円(税込)

書籍情報:openBD

「太平洋の巨鷲」山本五十六 大木毅著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 日本がアメリカとの開戦にふみきる一年前に、連合艦隊司令長官、山本五十六は、海軍の見通しを尋ねられたのに対して、「初め半年か一年の間は随分暴れてご覧に入れる」と語った。だが当時の海軍で山本は、日米の衝突を避けようとする国際協調派だったはずである。山本をどう評価するかに関して、戦後にさまざまな議論が闘わされたさい、焦点となったエピソードの一つである。

 著者の大木毅は、戦略・戦術・作戦の三つの次元を区別しながら、軍人としての山本の生涯を分析し、評伝にまとめあげた。手軽な新書でありながら、数多くの史料と証言を盛りこみ、充実した一冊である。冒頭の発言はむしろ、戦略の次元での長期の見通しでは、開戦すべきでないと提言するものだった。

 しかし、このように周到な識見と、すぐれた統率力をもっていた軍人が、他面で旧来の戦艦重視の方針に執着を残すなど、戦術・作戦の次元では「振れ幅」を露呈し失敗してしまう。軍事にかぎらず、リーダーの判断とはいかなるものであるべきか。そのことについて深く考えさせられる。(角川新書、1012円)

読売新聞
2021年9月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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