薬を食う女たち 五所純子著 河出書房新社

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薬を食う女たち

『薬を食う女たち』

著者
五所 純子 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309228242
発売日
2021/06/22
価格
1,892円(税込)

書籍情報:openBD

薬を食う女たち 五所純子著 河出書房新社

[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)

のみ込んだ言葉も綴る

 本書が書かれる契機となったのは、著者が雑誌『サイゾー』に連載した「ドラッグ・フェミニズム」だった。ドラッグを摂取する女性たちに話を聞き、ルポルタージュを書く。その取材を経て、著者は連載とは別のテキストを書き継ぐ。そのテキストが元になり、本書が生まれた。

 これまでにも、ドラッグを摂取する女性たちは何度となくジャーナリズムの取材対象とされてきた。材料を取ると書いて「取材」。取材者は、所定の文字数に収まるように対象者の言葉を切り取り、ひとつのストーリーに落とし込む。時に快楽にふける享楽者として扇情的に報じられ、時に研究対象として分析され、時に社会問題を暴く告発者として採集されてきた。

 著者は、取材対象を断片的に切り取るのではなく、「薬を食う女たち」が主人公となる物語を描こうとする。その試みが、独特の文体を生み出す。巻頭に収録された「インタビュー」と題した章には、「インタビュアー」と「かれん」が登場し、取材のやりとりが描かれてゆく。だが、ページが進むにつれ、著者は「インタビュアー」と「かれん」がその場では語らなかった言葉や、のみ込んだ言葉まで綴(つづ)り始める。語られなかった言葉を綴るのは、フィクションの領域だ。でも、その言葉は、著者が都合よく創作した言葉とは思えなかった。紙面から、ままならない現実を生きている誰かの気配と、言葉がのみ込まれた余韻まで伝わってくる。本書はノンフィクションの極北だ。

 最後に描かれるのは、薬物依存症の問題を抱える母と、その娘だ。この章は「わたし」という一人称で書き綴られ、母は「あなた」と呼びかけられる。ここで「わたし」という一人称が選ばれたことには理由があるのだろう。ここではもう、彼女たちは「薬を食う女」や「その娘」といったカテゴライズを抜け、ひとりの人間として描かれている。「わたし」が「あなた」に語りかけた言葉に、胸を打たれる。

読売新聞
2021年9月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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