仁義なき戦い 菅原文太伝 松田美智子著 新潮社

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仁義なき戦い 菅原文太伝

『仁義なき戦い 菅原文太伝』

著者
松田 美智子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103064527
発売日
2021/06/24
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

仁義なき戦い 菅原文太伝 松田美智子著 新潮社

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

心掴む 存在感と生き様

 同業で超大先輩であるはずなのに、菅原文太、とつい呼び捨てにしてしまうほど、わたしにとっては映画の中の憧れの人である。心を掴(つか)まれるとはこういうことか、と「トラック野郎」シリーズを初めて観(み)たときに思った。「仁義なき戦い」を観たときも、佇(たたず)まいと存在感に圧倒された。画面に映るだけで、すべてのエネルギーがぐっとそこに集まるようだった。直接お会いすることは叶(かな)わなかった。だがこの本を読んで、ご本人が目の前に現れてくれたようなそんな感覚を覚えた。

 本書は、俳優・菅原文太の人生を本人やまわりの人の言葉で辿(たど)りつつ、人間・菅原文太に迫る評伝である。意外にも俳優業は「自分からやりたいと思って生きてきたわけじゃない」との発言があったようだが、「飢餓俳優」と呼ばれるくらい貪欲に仕事に向き合っていた姿や、修業を積むために20歳で劇団四季に1期生として入団していた事実には、彼の愚直な性格が表れている。とは言え、鳴かず飛ばずの状態が続く。新東宝、松竹、東映と移籍をするが、まともに台詞(せりふ)ももらえない。鬱屈(うっくつ)とした俳優生活を約20年過ごしたところで、ついに「仁義なき戦い」でスターに躍り出るのだ。40歳、ギラギラした目を持ち、真摯(しんし)な姿勢でいたからこその遅咲き。自分も俳優として奮い立たされる。

 スターの座に就いてからも、人付き合いはあまりせず、控室では一人気ままに読書をして過ごし、派手にお金を使うこともしなかった。いわゆる“スター”とは対照的で異色だ。この自分を貫く姿からも芯の強さ、男気を感じる。

 「負けてもいい」。晩年、農業の道へ進んだ菅原文太は言う。「大事なことは心の中で、こう自分で自分に言い聞かせることなんだ。『弾ぁ、まだ残っとる』」。最後の最後まで、常に新しい世界を切り開こうという野心を持ち続けた人間・菅原文太の生き様(ざま)は、これからも多くの人を圧倒し、心を掴み続けていくことになるだろう。

読売新聞
2021年9月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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