『「反原発」のメディア・言説史』
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<東北の本棚>3・11以後の変容検証
[レビュアー] 河北新報
2011年3月11日以降の社会で、原発を巡る人々の考え方をまとめようと試みた一冊。著者は、「3・11」直後は熱気にあふれ、量も膨大だった脱原発の主張が時の経過とともに人々の記憶から消えていくことを懸念。後世のために整理して記録しようと、メディアや科学者、知識人らの言説に焦点を当てて検証した。
本書は3・11以前について、「新聞やテレビなどの主流メディアは原発推進構造の一部を成す重要なアクターであり続けた」と主張。それが東京電力福島第1原発事故を受け、それまでの姿勢を自ら問うようになったとし、朝日新聞が過去の自己批判を含む連載記事に取り組んだことを挙げる。「(戦争がジャーナリズムの)一度目の敗北とするならば、原発からの撤退を事前に提言することができなかったのは二度目の敗北」との一節を紹介。「日本のメディアでは珍しい」と論じる。
著者はさらに、各新聞社の社説に注目。原発事故以前は地球温暖化対策の切り札かのように原発を評価してきたが、朝日、毎日、東京新聞の3紙が事故後4カ月ほどで脱原発の立場を鮮明にしたことを捉え、「社論の大転換で、新聞史、メディア史双方に重要な出来事」と記す。ただ、脱原発を表明した社は一部にとどまり、事故の記憶の風化もあって今や原発は主要な取材対象でなくなった-とも指摘する。
本書は最後に、原発事故でドイツなどが政策転換を果たしたのに、事故の当事国の日本で脱原発が実現しない理由を考察する。ドイツはもともと原発推進派と反対派の勢力が拮抗(きっこう)していたのに対し、日本の反対派は少数だったこと。事故後に反原発運動やデモが盛り上がったものの、一枚岩ではなかったこと。それらを踏まえ、「政治への現実的コミットメントが不足している」などと推測した。(桜)
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岩波書店03(5210)4000=3300円。