死が見えにくい現代に習俗の重要な記録を辿る

レビュー

4
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土葬の村

『土葬の村』

著者
高橋 繁行 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784065225448
発売日
2021/02/17
価格
1,100円(税込)

書籍情報:openBD

死が見えにくい現代に習俗の重要な記録を辿る

[レビュアー] 呉智英(評論家)

 この春、私は加藤博子さんとの対談本『死と向き合う言葉』を出した。それからは書店に行くたびに、死をテーマにした本が気になる。本書『土葬の村』も書棚に見つけて購入。一読後、残念、間に合わなかった、と思った。これを読んでいたら、一章割いて言及できたのに。出版のタイミングが悪かったのだ。

 本書は素っ気ない書名とは裏腹に、死の儀礼、すなわち葬送儀礼について、日本の各地での豊富な事例を紹介している。著者は学者ではなくルポライターなので、現場を歩いて葬送の実情を記録してきた。中心になるのは土葬。十六年前の統計値で既に「日本の火葬率は九九・八%に達していた」。土葬はほぼ全滅状態なのだ。

「土葬は法律で禁止されていると思い込んでいる人が意外に多い」と著者はいう。条例によって土葬禁止区域が指定されている自治体はあるが、土葬そのものが禁止されているわけではない。火葬、それも大きな火葬場によるものが圧倒的多数になったから、誤解があるのだ。

 火葬が多数派になるのも無理はない。葬儀を取りしきる共同体の繋がりが希薄になり、また火葬の“清潔感”が好まれるようになったからである。だが、このことによって、日本人の死生観が分からなくなり、死の意味も分からなくなりはしないか。

 葬儀は親しい人の死に立ち会うことである。それは哀惜の意を表わすことだ。しかし、同時に「死穢」に向き合うことでもある。『ハムレット』の終盤の墓場のシーンで、ハムレットがしゃれこうべを手に取って言う。「アレクサンドロスも地の中ではやはりこのような恰好をしていたのか。このいやな臭いでか」。そこへオフィーリアの棺が入ってくる……。

 本書には「野焼き」の記述もある。野天で薪や炭を使って火葬にするのだ。私の知人でも一九八〇年前後にこれを見ている人がいる。著者もその「息詰まる証言」を記録する。「濡れむしろが黒く炭化するころ、肉が焼けむき出しになった背骨に火が移った」。やがて「背骨はバラバラになることなく、真下に崩れ落ちた」。野焼きの体験を聞いた著者は「しばしの間、私は声を発することを忘れた」。

 野焼きは先の大戦の空襲による死者たちにも行なわれた。一九九五年の阪神・淡路大震災でも検討されながら、辛うじて火葬場で火葬ができた。

 著者は既に二〇〇四年に『葬祭の日本史』も出している。死が見えにくくなる現代、習俗の重要な記録者である。

新潮社 週刊新潮
2021年9月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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