書評家・村上貴史さんが勧める、人気ミステリシリーズ最新刊3点!

レビュー

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  • 兇人邸の殺人
  • 君が護りたい人は
  • 征服少女

書籍情報:openBD

[本の森 ホラー・ミステリ]『兇人邸の殺人』今村昌弘/『君が護りたい人は』石持浅海/『征服少女 AXIS girls』古野まほろ

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 デビュー作が各種ミステリランキングで軒並み一位を獲得した今村昌弘。その『屍人荘の殺人』に連なるシリーズ第三弾が『兇人邸の殺人』(東京創元社)である。

 神紅大学ミステリ愛好会の剣崎比留子は、ある組織の依頼を受けて、“班目機関”の研究成果を求め、廃墟を題材とする地方のテーマパークを訪れた。組織が呼び寄せた傭兵たちと、愛好会の後輩とともに、だ。班目機関とは、第二次大戦後にある資産家が設立した組織で、薬品研究の名の下に、倫理面道徳面を無視し、人体の能力を飛躍的に強化させる研究などを行っていたという。その“成果”が、廃墟テーマパークにある兇人邸に秘匿されているらしい。深夜、兇人邸に侵入した比留子たち一行は、思わぬかたちで内部に閉じ込められてしまう。そして次々と殺人が……。

 デビュー作同様、本作でも閉鎖環境への考察が新鮮で、なおかつ行き届いている。営業中のテーマパークの一角にありつつも、そこだけは来園者の立ち入りが禁じられた兇人邸の特殊性が登場人物たちに強烈な焦燥感をもたらすし、読者にはサスペンスを与える。また、それが登場人物の思考の筋道にも影響を与え、事件の構造にも関わってくる造りも見事。さらに、密閉環境における事件解明のためのロジックが丁寧に作られている点にも好感を抱く。最終的に意外性に富んだ真相が明かされると同時に、“犯人”の悲哀も明らかになって胸を打つ。新規性とサスペンス、論理と驚愕、そして叙情――いずれも圧倒的に秀逸。

 石持浅海『君が護りたい人は』(祥伝社)は、《碓氷優佳》シリーズの第六弾。今回は、弁護士の芳野友晴が視点人物だ。彼は、アウトドア用品店の常連たちとともにキャンプ地に来ていた。芳野は、七人の参加者のなかに、ある殺意を持つ者がいることを知っていた。芳野はその人物の行動を注視し、犯行の手段を推理し、ターゲットを護ろうと動く。だが、殺害を目論む者も二の矢三の矢を用意しており……という具合に、推理また推理という密度の濃い作品だ。詳述は避けるが、優佳が果たす役割も印象深いし、彼女が放つ冷徹で理詰めの言葉の切れ味も抜群。単品で読んでも知的遊戯を満喫出来るのでお試しあれ。

 古野まほろ『征服少女 AXIS girls』(光文社)は、『終末少女 AXIA girls』の続篇。今回は、天国から地球に向かう巨大な方舟のなかで怪死事件が連続する様が描かれる。その謎を一人の天使が仲間とともに推理するのだが、その思考の量が、まず圧倒的だ。この世界ならではの論理展開も新鮮で良い。そのうえで、全体の四分の三ほどの位置に置かれた読者への挑戦状を経てからの終盤が圧巻。犯行の微細な部分から、果ては天国そのものにまで及ぶ多層的な“意外な真相”が連射されるのだ。まさに圧巻の推理巨篇。細部の細部まで堪能するなら、やはり怪物(伏線の化け物)であった前作から読むことをお勧めする。

新潮社 小説新潮
2021年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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