本多孝好『アフター・サイレンス』を吉田伸子が読む「罪と罰、そしてその先にある祈り」

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アフター・サイレンス

『アフター・サイレンス』

著者
本多 孝好 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087717648
発売日
2021/09/03
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

本多孝好『アフター・サイレンス』を吉田伸子が読む「罪と罰、そしてその先にある祈り」

[レビュアー] 吉田伸子(書評家)

罪と罰、そしてその先にある祈り

「許されるように生きろ! 」
 これは、数年前に放映されたあるテレビドラマに出てきた言葉だ。取り返しのつかない結果を招いてしまった自分を責め、命を絶とうとしていた高校生男子は、その一言に泣き崩れる。
 その言葉はずっと頭の中に残った。背負いきれないものを背負ってしまい、せめて自らの命を差し出すことが償いになるのなら、とまで思い詰めている人に、「(自分が犯した罪の被害者となった相手に)許されるように生きろ」という言葉は最適解だと思ったからだ。
 同時に、(文字の)物語の中で出会いたかった言葉だ、とも思った。以来、この言葉と同じ地平にある物語を読みたい、と願っていたのだが、それを叶えてくれたのが本書だ。 主人公は、大学の心理学研究室に籍を置く高階唯子(たかしなゆいこ)。県警の「被害者支援室」だけではカバーしきれないカウンセリングを受け持つ臨床心理士であり、国家資格の公認心理師でもある。彼女が担当したクライエントそれぞれのドラマと、彼女自身のドラマが絡まり合って、物語は進んでいく。
 唯子が心を寄り添わせるのは、犯罪被害者の遺族だが、同時に加害者家族にも焦点が合わせられていて、それは唯子が加害者家族でもあるからだ。彼女の父親は、殺人の罪を犯し服役中だった。
 この、被害者家族と加害者家族双方を描いたことに、本書の意義が、ある。なぜなら、人が犯した罪と罰に、同時にむきあうことになるからだ。殺人が許されない罪であることは間違いがないが、では、その罪に見合う罰とは何か。極刑なのか? 仇討ち的な復讐なのか? 
 被害者、加害者、双方の家族が心に抱えてしまう痛みと傷は、一朝一夕に癒えることなどない。けれどもいつか、癒えずとも、許し許される日が来ることもあるのではないか。来て欲しい。そんな作者の祈りにも似た声が聞こえる。

吉田伸子
よしだ・のぶこ●書評家

青春と読書
2021年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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