『一遍聖絵』の世界 五味文彦著

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『一遍聖絵』の世界

『『一遍聖絵』の世界』

著者
五味 文彦 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784642083966
発売日
2021/07/02
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

『一遍聖絵』の世界 五味文彦著

[レビュアー] 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

 一遍聖絵(ひじりえ)(一遍上人絵伝)は、時宗の開祖一遍の生涯を描いた絵巻物。没後すぐに描かれた鎌倉時代の清浄光寺(しょうじょうこうじ)蔵国宝12巻本は、当時の生活・景観を活写する。最近の神奈川県立歴史博物館『国宝一遍聖絵』などの図録やウェブで鮮明な画像が公開され、研究も進む。

 一遍は、南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)の念仏を勧めて札を配り、踊念仏も行って布教した。東北から九州に至る各地を旅し、遊行上人と称された。絵巻には京・町・村や市の人々の暮らしぶりが描かれ、貴族・武士から庶民まで多様な人々が登場する。

 歴史家の著者は、美術史・宗教史や建築史などをふくむ総合的視座から描かれた社会像に迫り、全巻にわたり一遍の生涯と各地の郷土像を詳しく読み解く。福岡の市(岡山県)や武士の居館など著名な場面だけでなく、詞書(ことばがき)をふくめ描かれた構図・内容の全体像を歴史的に絵解きしている。一遍に従う人々も、時衆の僧・尼の区分や信者の貴賤(きせん)・社会的弱者などの描き分けを指摘する。

 幅広い視野と読みやすい文体で説得力に富む叙述は、一遍聖絵への導入として魅力的である。(吉川弘文館、2200円)

読売新聞
2021年9月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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