風と共に去りぬ アメリカン・サーガの光と影 荒このみ著 岩波書店

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風と共に去りぬ アメリカン・サーガの光と影

『風と共に去りぬ アメリカン・サーガの光と影』

著者
荒 このみ [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784000614733
発売日
2021/06/18
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

風と共に去りぬ アメリカン・サーガの光と影 荒このみ著 岩波書店

[レビュアー] 栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

米建国と成長 読み解く

 アメリカ合衆国は1860年代に起きた南北戦争の時期に、深刻な分断の危機を経験した。そして今アメリカは、新たな分断の危機の中で一体化への模索をはじめているように見える。

 『風と共に去りぬ』は、南北戦争開戦時から戦後に至る12年間を、南部の視点から描いた長大な小説である。頑固で力強い農場主、スカーレット・オハラの恋愛物語として読まれてきた本作全6巻の新訳を完成させた荒このみは、この小説をアメリカの建国と成長を描いた歴史物語(アメリカン・サーガ)ととらえる。

 訳書の解説に書き下ろしを加えた本書は、小説の背後に広がる歴史的背景をパノラミックに描いてみせる。

 著者はまず、スカーレットの誇り高さを父母の出自から分析する。フランス系の母は娘にレディ教育をほどこし、アイルランドから流れてきた父は土地への執着とたくましさを娘に与えた。

 著者はこの二面性を南部史の中へ解き放ち、貴族的な文化が頓挫し、裸一貫からのし上がる「アメリカの夢」が勃興する時期に生きた、スカーレットの姿を浮き彫りにしていく。読者はやがて、南北分断の時代を生き抜く彼女を描く小説が、個人を越えたアメリカの物語でもあったことに気づかされる。

 戦時中の看護師、女スパイ、男装の女兵士をめぐる考証や、性的に中立であるかのように描かれる黒人奴隷の表象の分析が読ませどころ。とりわけ、スカーレットが父から引き継いだタラの農場が、30年前まではチェロキー部族が暮らす土地だったという事実には愕然(がくぜん)とさせられた。自作農を目指すアイルランド移民の「夢」をかなえたのが、理不尽な強制移住を命じられた先住民の土地だったという皮肉に、歴史の「光と影」がかいま見える。

 本書後半では、小説の作者マーガレット・ミッチェルと彼女が生きた時代について語られる。1936年に出版され、すぐに映画化もされた『風と共に去りぬ』は大きな人気を博したが、文学研究の対象としては黙殺されてきた。本書は眠れる大作の復権をめざす試みでもある。

読売新聞
2021年9月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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