ビジネスで成功したプロの『最高のことば』から学べること
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
生きていく過程においては、困った事態に直面したり、「ここでどういう行動をするべきか」と選択を迫られることがあります。とはいえ現実問題として、自分ひとりでは決断しづらいことも少なくありません。だから困ってしまうわけですが、そんなときに役立つのが各界で活躍する「プロのことば」。
自分とは縁遠いと思えるような人の発言のなかにさえ、大きなヒントが隠れている可能性があるからです。
そこできょうは、『1分で心が震える プロの言葉100』(上阪 徹 著、東洋経済新報社)をご紹介したいと思います。20年以上で3000人以上に話を聞いてきたという著者が、“最高のことば”をよりすぐって一冊にまとめたもの。
登場する人々は、新たな時代を切り開いた起業家、メガバンクの頭取や世界的メーカーの経営トップ、上場企業の社長、科学者、俳優、ミュージシャン、アスリート、著名な大学教授や学長など多種多様。つまり、各人が長い人生経験のなかで培ってきたエッセンスが凝縮されているわけです。
本書は、私が実際にインタビューし、私が原稿を書き、私の名前がクレジットされた書籍、インタビュー集、雑誌やウェブサイトの記事からその一部を引用し、資料や当時の記憶、メモなどに基づく私の解説を加えて新たに書き起こしている。(「はじめに」より)
やりたいことの見つけ方、運やチャンスのつかみ方、力を発揮する方法など、6種のテーマに分けたうえで、計100人の声を収録。
きょうはビジネスに焦点を当てた第5章「ビジネスで成功する人は何が違うのか」のなかから、ふたりの著名ビジネスパーソンのことばを抜き出してみたいと思います。
ハワード・シュルツのことば
利益や効率を持続できる
唯一の方法は、
正しいことをすることです。
ハワード・シュルツ氏は、元スターバックスコーヒーカンパニーCEO。「不可能だ」といわれたコーヒーチェーンの世界進出を成功させ、そればかりか再生も成し遂げた名経営者です。
いまでこそすっかり浸透したスターバックスですが、そもそもなぜ成功したのでしょうか? 小さなコーヒーショップを世界的なブランドにしたいと宣言したとき、信じる人は少なかったというのは、十分に納得できる話。しかしシュルツ氏は、価値は認められると信じていたのだといいます。
そればかりか年平均成長率が49%にまで達した株式公開後、クオリティ低下からブランドを毀損していたスターバックスを復活に導きもしました。CEOに復帰してからは、1万人が集まるリーダー会議をハリケーンで被災した地で開き、累計5万時間のボランティア活動も行いました。
「ブランドは愛されなければなりません。そのためには、まず従業員が会社を愛していないと始まらない。それが大きな力を生み出します。最も大事なのは、現場の愛なのです」
「企業は利益や効率を常に求めています。しかし、私の経験から言えばそれを持続できる唯一の方法は、正しいことをすることです」 (以上、159ページより)
正しいことをすれば、人材がきてくれる。顧客が支持してくれる。だからこそ、「勇気を持って正しいことをしよう」とシュルツ氏は話していたそう。「それが、誰にもプラスを生むのだ」とも。(158ページより)
御立尚資のことば
タクシーの運転手さんに
偉そうな口をきく人間には
かなり怒ります。
御立尚資氏は、元ボストン コンサルティング グループ(以下:BCG)日本代表。BCGでは日本代表のみならず、グローバル全体の経営判断を行う経営会議メンバーに日本人として初めて選任されました。
ちなみに、BCGの前職は日本航空。仕事は空港カウンターの現場から始まり、さらにはアシスタントパーサーとして機内サービスにも従事したそうです。
「現場をやらせてもらったのは、ものすごく大きな意味がありました。もともとサラリーマンには向いていないと自分で思っているような新入社員だったわけです。現場から始まったから、素直に会社にいられたと思うんです」(163ページより)
華やかに見えるものの、実は時差もあって厳しいのがキャビンアテンダントの世界。そんななか、サービス自体のみならず、乗客から学べることも多かったと振り返っています。
たとえばファーストクラスでサービスをすると、“本物感”のある人がわかったというのです。
「自分のタイトルが自分の存在証明になっていて、サービスをする人間に対してひどい態度を取る人がいる。その一方で、社会的に高い地位にあるのに、我々のような人間にも、ものすごくちゃんと接してくださる方もいる。
若いコンサルタントとタクシーに乗ったとき運転手さんに偉そうな口をきく人間にはかなり怒ります。普段は声を荒げるようなことはないんですが、そういうときは真剣に怒るんです。こんなことをしていたら、どこまで行っても半人前にしかなれないぞ、と」(163ページより)
のちに本社の経営企画に移った御立氏は、現場経験があったからこそ、やるべきことがわかったと話していたのだそうです。これは、どんな仕事に就く人にとっても重要な教訓ではないでしょうか?(162ページより)
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各人のことばがそれぞれ1見開きでコンパクトにまとめられているので、興味のある人物のページから読んでみることも可能。そのどこかから、自分自身の考え方や目標に合致した金言を見つけ出すことができるかもしれません。
Source: 東洋経済新報社