【聞きたい。】川内有緒さん 『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
[文] 篠原那美(産経新聞社)
ノンフィクション作家の川内有緒さんは2年前、友人に誘われて、全盲の白鳥建二さんと絵画展にでかけた。付き添ってくれる人々に作品を言葉で教えてもらって鑑賞する白鳥さんは、教科書のような解説ではなく、作品をめぐる即興の会話に興味をもっている。
川内さんは、白鳥さんに初めて同伴したときの体験を「衝撃だった」と振り返る。「言葉で伝えるため、1枚の絵を長いと30分かけてみますが、そうすると細部まで気がつくようになる。観察力が鍛えられるような面白さがありました」
だがそれは出発点で「気づきの一つでしかなかった」。友人らを交えて白鳥さんと鑑賞を重ねるうちに、障害や差別について思索は深まっていった。
大音量の心臓音に合わせて、電球の光が強弱を繰り返す現代アートを鑑賞したときのこと。視覚情報がない分、白鳥さんは聴覚などの感覚が鋭いのではないか。そんな川内さんの想像を白鳥さんはあっさり否定した。「盲人を美化しているんじゃないかなあ」と。
「上から下にさげすむことだけが偏見ではない。私もパラリンピックを見て、すごいなあと思ってしまいましたが、その『すごい』の裏側に、偏見に近いものがあるかもしれないと、気づく必要はあると思う」
幼少時代「目が見えないんだから、ひとの何倍も努力しないといけない」と家族に言われた白鳥さんは、「目が見えるひとは努力しなくていいの? そんなのずるい」と感じたという。
社会には金メダルを獲得する障害者がいる。そして、大勢の普通に暮らす障害者がいる。「パラリンピックを応援しただけで、障害者のことを知ったような気になっていないだろうか」と川内さんは問いかける。
「障害者を色眼鏡でみて、他の誰とも変わらない、特別な人たちではないということをときに忘れてしまうんですけど、自分なりの道をいく白鳥さんは、それを常に思い出させてくれる人です」(集英社インターナショナル・2310円)
篠原那美
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かわうち・ありお 昭和47年、東京都生まれ。著書に開高健ノンフィクション賞を受賞した『空をゆく巨人』(集英社)など。