【気になる!】文庫『静謐 北杜夫自選短篇集』
[レビュアー] 産経新聞社
「どくとるマンボウ」シリーズなどのユーモアエッセーでも知られる著者の没後10年企画。昭和31~43年に発表された純文学作品など10編を収録した。
夫と死別し、子や孫らと隔たって暮らす85歳のとよが、4歳の孫・千花の来訪を待ち受けるようになり、ある日、「何遍も見た」という悪魔の話を口にする。三島由紀夫が称賛した表題作のほか、失職した男と妻、娘の心温まる日々を描く「黄いろい船」、台湾で珍種の蝶(チョウ)を追い求める採集人の物語「谿間(たにま)にて」など。
著者のファンだった今野敏の巻末エッセー「ここから始まった」も味わい深い。(北杜夫著、中公文庫・990円)