<東北の本棚>入院患者の視点で詠む
[レビュアー] 河北新報
今年3月に100歳を迎えた仙台市の歌人の第7歌集。昨年12月に腰の骨折で市内の総合病院に入院したといい、リハビリなどと並行して病室で詠んだ短歌73首を収めた。あとがきに「今まで経験したことがないことを、見聞きし、推量した内容」と記す通り、入院患者だったからこその視点が各所に見られる。
冒頭の「看護師」と題した項目がその典型だろう。<大病院の組織動かす時間・時間!医師・看護師ら病人もまた…。><車椅子押されて巡る病棟は看護師たちの忙しき出入り>。本来、患者の体を休め、治療に専念させるべき場所が、慌ただしさに支配されていることが伝わってくる。
著者が入院した時期、病院はどこも感染が拡大する新型コロナウイルスとの闘いとの真っただ中でもあった。そのせいか、コロナやマスクを取り上げた歌が目立つ。特に<マスクマスク「三密」禁止お互ひに言葉なきまま年の瀬となる>は、当時の院内の様子が目に浮かぶようだ。
入院が年の瀬だったことから、病室で除夜の鐘を聞くことになった著者。そのことについても何首か詠んでおり、<「除夜の鐘」聞きたしと起きてゐしものを5階の病室に届くすべなし!>などは独特のユーモアにあふれていて面白い。
著者ならではの老いを見つめた作品も読ませる。<わたくしとは似ても似つかぬ白髪の老婆が鏡の中にゐるとは!><もう二度と鏡の中を見じと思ふどこの老婆かわたしがきめる!>。年齢を重ねたことによる寂しさがにじむ歌だけでなく、いくつになっても女性だと感じさせられる表現があり、ほほ笑ましい。
著者は甲府市生まれ。東北帝大(現東北大)卒。(桜)
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現代短歌社075(256)8872=2750円。