<東北の本棚>失敗恐れず 道切り開く
[レビュアー] 河北新報
決してスピードや体格に恵まれているわけではない。しかし抜群のテクニックとゴールセンスで相手をほんろうし、次々とネットを揺らす。仙台市のクラブチーム「FCみやぎ」で中学、高校時代に鍛錬を重ね、ワールドカップ(W杯)2大会連続出場(2014、18年)を果たした元日本代表の背番号10、香川真司(32)のサッカー人生を凝縮した一冊だ。
スポーツライターのミムラユウスケ氏の取材によるドキュメンタリーに、本人の語りを随所に盛り込む構成。岐路に立たされた時、「心が震える」道を選び運命を切り開いてきた香川のプロ哲学に、読む側の心も熱くなる。
最初の「その時」は小学5年の時に訪れた。「なんや、これ。めちゃくちゃ楽しいやん」。神戸市のサッカー少年をとりこにしたのは、遠征先の仙台市で見たFCみやぎイレブンの卓越した個人技だった。プロになる夢をかなえるにはここしかない。仙台へのサッカー留学を固く決意した少年を両親が後押しし、祖母が宮城に引っ越して孫の生活を支えた。
高校卒業後、Jリーグ・セレッソ大阪で活躍。10年、21歳でドイツの強豪ドルトムントに移籍する。リーグ2連覇に貢献すると、名将ファーガソン監督に口説かれ、イングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドに加入。移籍初年度の優勝に貢献し、二つのサッカー大国をまたいだ3季連続優勝を主力としてやってのけた。
急成長と栄光の後は、けがや戦力外など挫折の連続だった。97試合出場、31得点を重ねた代表から遠ざかった今、香川は欧州5カ国目、ギリシャでプレーする。「攻撃的なポジションの選手は、自ら仕掛け、失敗を恐れずトライしなければ、能力はさびついていく」。欧州で道を究めようとする魂は、仙台を目指した少年時代と少しも変わらない。(浅)
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