『世間体国家・日本』
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ニッポンを縛る「世間体教」
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
内閣支持率が激落ちした後に来る総選挙、その直前という政治の季節が久々に到来してますが、政権交代の気配は薄く気運は低く、ニッポンの夜明けはなぜ遠い。そのわけを活字に求めてみれば、新書の新刊にちゃんと出物がありました。
世界は大きく変わっているのにニッポンは大きくは変わらず、変化に対応できずにズルズル遅れていく。その症例と病因、そして処方箋までを示してくれるのが、『世間体国家・日本』。著者はこれが新書デビューの歴史社会学者・犬飼裕一で、この国は、世間体を気にしすぎる=失敗を恐れすぎる「世間体教」に冒されているというのが彼の見立てだ。
世間体が強力だからこそ、強い者は隠蔽や強弁に精を出し、弱い者は欝や自殺に追い込まれる。組織は閉じ、個人は群れる。自分の基準は後回しで、周りの基準を優先する。
世間体のベースになる世間は、家族や会社、業界から地域、国、世界まで大小さまざまにあって、ある人や組織がどの世間の世間体を重視しているかという問題もある。あの政治家やあのコメンテーターが言いたい放題で無責任に見えるのは、有権者層だの視聴者層だのの広く大きな世間体ではなく、政界だのメディア界だのの狭く小さな世間体を気にして動くゆえ。
己を縛りつけている世間体が不合理だと気づいてそこから抜け出すことができるなら、楽になるし前に進めるはずなんだけどね、アナタもニッポンも。