『ワーキング・ホリデー』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
ホストの前に現れた小五の男の子と料理の愉しみ
[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「秋の味覚」です
***
ずいぶん昔、料理本を1冊、書いたことがある。会社に泊り込んで生活していたころの話だが、突如料理に目覚めたのだ。料理本を買い、その中から自分にも出来そうなやつを選び、材料を買って作るのが愉しかった。
そういう料理生活(正しくは、自炊生活と言うべきかも)を送っていたら「本を書きませんか」と編集者が言ってきた。それが目黒考二名義の『連篇累食』(2005年/ぺんぎん書房)という本で、まったく売れなかったが、私にとってはあの料理生活(自炊生活)がまるごと入っているのでとても懐かしい。
中には失敗した料理もあり、それなのにレシピを付けたので、「このレシピ通りに作ったら失敗するということだから、このレシピ、意味ないよね」と言われてしまったが、そういうことを含めて懐かしいのだ。
坂木司『ワーキング・ホリデー』は、ホストの沖田大和の前に「初めまして、お父さん」と小学五年生の進が現れるところから始まる物語だが、この進君が、父親である沖田大和の弁当を作ったり、二人の晩飯を作るのも、料理が愉しいからだと思う。
この小説の中に、なめたけの炊き込みごはんが出てきて、とても美味しそうだ。私も何度も作ったが、炊き込みごはんは簡単で美味なのである。秋ならば栗の炊き込みご飯がいい。このあと『ウィンター・ホリデー』『ホリデー・イン』と続いていく愉しいシリーズなので、おすすめ。