<東北の本棚>かたくなな心に染みる

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青色とホープ

『青色とホープ』

著者
一方井亜稀 [著]
出版社
七月堂
ISBN
9784879443892
発売日
2021/01/01
価格
1,430円(税込)

<東北の本棚>かたくなな心に染みる

 人はどんな時に詩を読むのか。誰にも理解されない孤独に襲われた時、わだかまりを突き放したい時…。本書の言葉はかたくなな心に甘雨のごとく染み込んでいく。
 著者は仙台市在住。2011年4月に第1詩集「疾走光」を出版。中原中也賞候補にもなった。現在、現代詩手帖などで詩を書く傍ら、詩のイベントも企画する。
 第3詩集の本書は、静かな言葉で空疎な日常の中の「不在」に輪郭を与える。視線の先にあるのは廃ホテルやコンビニの灯、団地の公園といった都市の遺物。思索は場を覆う雨音、風、すえた匂いといった気配をまといつつ、現実と幻想を行き来する。
 <テーブルの上には/無抵抗なままの果実の/僅かな呼吸があり/萎びていく(中略)/遠い国のことは知らない/台所の流しには/ちぢこまっていく果皮だけがある>(「昼下がり」)
 「排除されているものに焦点を当てることでよりリアルな現実が見えてくる」。人は理解できないものから目をそらすが、著者はそこに意味を探す。分からなさは書くことで他者と共有できる、と思うからだ。
 <無実かと問われれば/あながちそうとは言えなかった(中略)/どこでつけてしまったのだろう/身に覚えのない/手の甲のひっかき傷は/何かを指し示すようにして/新たなふるえを待ち焦がれて>(「朝になれば」)
 都市の中では人間でさえ幻影と思えてくる。著者もまた、そこから逃れられない。
 <土曜日/垂れ込めた雲の向こうばかりを見て/捨てられた青い目の人形/その青を望みのようにして/飾りのように過ごしていく>(「青色とホープ」)
 絶望にまみれた地上。でも、顔を上げれば青い空はきっと、ある。(建)
   ◇
 七月堂03(3325)5717=1430円。

河北新報
2021年9月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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