〈阿呆宮〉の世 『八月のくず 平山夢明短編集』著者新刊エッセイ 平山夢明

エッセイ

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八月のくず 平山夢明短編集

『八月のくず 平山夢明短編集』

著者
平山夢明 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914240
発売日
2021/09/24
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

〈阿呆宮〉の世 平山夢明

[レビュアー] 平山夢明(作家)

 なんだか油断の鳴らない時代になってしまった。下らない人間が政治をしているのには気づいていたけれど、〈まさか、そこまでは〉という事態が前首相辺りから頻出するようになって滔滔(とうとう)、禁酒法になってしまった。本来、国民があまり政治に関心を向けなくても安定と納得できる国政運営をしてくれているのが理想なのだが、こう莫迦(ばか)と悪法と無策ばかりでは寝床でボヤが起きているのと同じで安穏とはしていられない。本当に〈まさか〉の時代になってしまったものである。

 特に個人的に大きいのは〈禁酒法〉だ。酒で騒ぐから禁止というのだが、悪いのは酒ではなくて〈騒ぐ莫迦〉なのだから、そっちを取り締まるべきなのに酒を禁止した。これでは交通事故が起きるからと運転禁止にしているのと同じだ。本当に莫迦なので閣僚の雁首(がんくび)を見ているだけでうんざりして文句を云う気も削げてくる。

 米国の禁酒法は理屈は色々と云われているけれど真の目的は移民の労働者が呑んでばかりで働かないという資本家の理論で悪法が誕生したのである。が、我が国の場合は馬と鹿の区別も付かない莫迦が時間を浪費した挙げ句のヤケクソ政策なのである。店で呑めなければ路上で呑む、公園で呑むは人情だ。逆に完璧に感染対策を取った店に限って開けさせれば何の問題もない。八年も前からオリンピックは決まっていたのに何も出来ない。これでは寝小便小僧と一緒だ。目を開けているだけ更に質(たち)が悪い。

 知り合いの店にも半年以上、行けていない。小体(こてい)だけれど亭主が心を込めて旨い肴(さかな)を育てるようにして出してくれていた店が閉店してしまう。居酒屋の名店や個人商店は地域の文化財だということがわからない莫迦が石棺のようななかに一杯詰まっている。シン・ゴジラでも本当に現れて丸焼きにしてくれることを願って、今日も家でしんみりと呑む―つまらん。

光文社 小説宝石
2021年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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