ランニング王国を生きる マイケル・クローリー著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ランニング王国を生きる

『ランニング王国を生きる』

著者
マイケル・クロウリー [著]/児島修 [訳]
出版社
青土社
ジャンル
芸術・生活/体育・スポーツ
ISBN
9784791773978
発売日
2021/07/27
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

ランニング王国を生きる マイケル・クローリー著

[レビュアー] 満薗文博(スポーツジャーナリスト)

◆「速く走る−成功者」の図式

 著者の人類学者、マイケル・クローリー氏(英国)は、自ら、フルマラソンを二時間二十分で走る、トップレベルの市民ランナーである。その「脚」で、一年三カ月にわたってエチオピアの「走る集団」に加わり、彼(か)の地のランニング事情に迫ったリポートである。

 前段でまず、私たち日本人の間にもおなじみのエチオピアのランナーは「学校までの長い道のりを裸足(はだし)で走って通ったり」したから速いという話を紹介する。だが、本著では、このことが、ほぼことごとく論破される。

 通信の発達した現代においても、彼の国の実態はなかなか伝わりにくいが、はるかに上を行く「システム化」の現実を知ることになる。「脚で国を誇る」ランナーには、個人的な大会賞金に加えて、国家的・社会的地位や名誉など応分な褒美が与えられ、人生が保証されるのである。

 国内にはいくつものランニングクラブが存在し、上昇志向を持つ。このような「システム」の構築には、エチオピア陸上競技連盟の主導が大きいが、有力な選手を輩出するクラブになれば、国や大企業、自治体からのバックアップが保証される。本著を読みながら、私は、優秀ランナーを生み出すことは、エチオピアの「有力産業」の一環なのだと、考えるに至った。

 東アフリカの標高二千メートル以上級の高地に住み続ける民族である。彼らが、さらに三千メートル級の超高地でランニング能力を鍛える様子も紹介されるが、与えられた「脚」で、自らの富と名誉を得、最終的には国の名誉を得る「システム」が出来上がっている様を読み解くことができるのである。

 かつて一九六〇年ローマ五輪、六四年東京五輪のマラソンを連覇した「裸足の哲人アベベ・ビキラ」の存在が、後世に影響を及ぼしたとする見方も紹介される。少し前まで、世界を席巻した「皇帝」ハイレ・ゲブレセラシェに続き、この国の選手が快走する。本著から見えてきたのは、彼の地に根付いた「速く走る−国の成功者」の図式だった。

(児島修訳、青土社・2420円)

英ダラム大人類学准教授、作家。2時間20分53秒の記録を持つマラソンランナー。

◆もう1冊

ティム・ジューダ著『アベベ・ビキラ』(草思社文庫)。秋山勝訳。

中日新聞 東京新聞
2021年9月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加