在外邦人の保護・救出 朝鮮半島と台湾海峡有事への対応 武田康裕編著 東信堂

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在外邦人の保護・救出

『在外邦人の保護・救出』

著者
武田 康裕 [著、編集]
出版社
東信堂
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784798917221
発売日
2021/09/07
価格
4,620円(税込)

書籍情報:openBD

在外邦人の保護・救出 朝鮮半島と台湾海峡有事への対応 武田康裕編著 東信堂

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

安全と迅速 両立への課題

 今回のアフガニスタンでの邦人とアフガン人関係者の保護・退避に際して、日本は他国のようになぜもっと早く対処できなかったのか。本書は編者を中心とする長年の共同研究の最終成果で、この疑問に一定の示唆を与えてくれる。偶然とはいえ絶妙なタイミングでの出版だ。

 在外邦人救助にあたって重要なのは迅速性と安全性のバランスだが、往々にして二律背反だ。具体的な論点は3つ。〈1〉退避活動についての領域国政府の同意、〈2〉武器の使用基準、〈3〉他国との国際協力のあり方。近年、平和安全法制により自衛隊の在外邦人救助、とりわけ非戦闘員退避活動(NEO)の方向性が整備され、保護すべき外国人の輸送も可能となった。今回はその最初のケースだ。

 しかし日本は在外邦人等の保護・輸送等に関して、欧米諸国と比べ何よりもまず安全性が重視され、国内法制度上の柔軟性は低い(山中倫太郎)。国際法では領域国の同意があれば在外邦人の保護は可能だが、ない場合は自衛権の行使となる。日本の場合、現行法規のもとで保護法益を在外邦人まで拡大解釈できるだろうか(真山全)。

 朝鮮半島と台湾海峡の有事を想定したシミュレーションは大胆だ。朝鮮半島の場合、現状では韓国が自衛隊派遣等を含む日本のNEOを受け入れる可能性は低い。まずは空襲に対する避難、そして危険な空港よりは港からの船舶退避が理想的だという(宮本悟)。台湾有事においては、いったん戦闘状態に突入すれば退避活動は困難、中国からの攻撃の予兆がある段階で、事前の迅速な行動が必須である(門間理良)。

 日本では邦人の安全確保それ自体の議論より、自衛隊の派遣をめぐる手段の議論が多い(能化正樹)。当面憲法改正がないとすると、国際法のレベルまで国内法の制約を緩和するか、法律運用の幅を広げるしかない(武田康裕)。ともあれ、平素から物心両面での準備が大切で、有事に備えた指揮組織の確立が急務である(関口高史)。現場は迅速な政治の決断を待っている。

読売新聞
2021年9月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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