45年におよぶ「つながり」で樹木希林に学んだ素顔の生き方

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ひとりじめ

『ひとりじめ』

著者
浅田 美代子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163914275
発売日
2021/09/15
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

45年におよぶ「つながり」で樹木希林に学んだ素顔の生き方

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 女優・浅田美代子のデビュー作は、1970年代のヒットドラマ『時間ですよ』だ。舞台は東京の五反田にある銭湯「松の湯」。浅田は群馬出身の従業員、ミヨ子を演じた。

 同僚であるケンちゃん(堺正章)、ハマさん(樹木希林、当時は悠木千帆)、ミヨちゃんの3人組は「トリオ・ザ・セント」と呼ばれ、かま場での抱腹絶倒の掛け合いが名物シーンとなった。さらに劇中歌『赤い風船』が大当たりした浅田は、このドラマで全国的な人気を得る。

 やがて21歳で吉田拓郎と結婚して芸能界と距離を置くが、離婚後に『さんまのからくりTV』などで復帰。その後は女優として着実な歩みを重ね、今や円熟の60代を迎えている。そんな浅田が、16歳で出会った樹木希林との45年におよぶ「つながり」を明かしたのが本書だ。ここには浅田しか知らない素顔の樹木がいる。他者とのベタついた関係を嫌い、一人で立って生きることを大切にしていた樹木。持論は「歳をとることを面白がらなきゃ!」である。また、良き女優であるための貴重なアドバイスも惜しまなかった。たとえばワイドショーは人間観察の場であり、「表情とか立ち振る舞いをよく見てごらん」と。それでいて、自分では女優と名乗ることを嫌がった。「女優って“優れた女”って書くんだよ。恥ずかしいよねぇ」

 本書には樹木をめぐる回想だけでなく、自身の秘事を語った部分も多い。しかも「私にとって30代は寝ても覚めても恋をしている、“恋の季節”だった」と率直だ。樹木は「(結婚とか)無理に形にこだわらずとも良いのよ」と言いながら、「でもね、つがいではいたほうがいいとは思うなぁ」と語っていたという。

 2018年9月15日、樹木は75歳で旅立った。この本は、「美代ちゃんが私の人生の語り部になってね」という生前の言いつけを形にしたものだ。そして、これからも彼女と共に生きていく約束の書でもある。

新潮社 週刊新潮
2021年10月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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