<東北の本棚>栄光の陰に挫折と苦悩

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彼方への挑戦

『彼方への挑戦』

著者
松山, 英樹, 1992-
出版社
徳間書店
ISBN
9784198653392
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>栄光の陰に挫折と苦悩

[レビュアー] 河北新報

 世界中のゴルファーが憧れる男子ゴルフ、マスターズ・トーナメントで4月、日本人として初めて優勝した松山英樹(29)=東北福祉大出=の初の自叙伝である。松山に対し、順調にステップアップし、世界の頂点に立った印象を持つ人は少なくないだろう。だが、本当の自分の姿をさらけ出したという本書を読めば、栄光の陰には多くの挫折と苦悩があったことが分かる。
 愛媛県出身の松山はサラリーマンの父親の影響で4歳の時にゴルフを始めた。練習場で球を打つうちに「プロになりたい」という夢を持つ。高知県の中学時代は一球でも多く打つため食事時間を削って練習した。高校時代、同年のプロ、石川遼は遠い存在だった。転機はゴルフの強豪、東北福祉大への進学。自信を失っていた高校3年の時、同大の阿部靖彦監督から「うちの大学で一からやってみないか」と誘われた。
 大学1年の時に東日本大震災が発生。直後のマスターズへの出場を辞退しようとしたが、激励のメールやファクスの束を見て被災者に夢の舞台で懸命にプレーする姿を見せようと出場し、アマチュアトップの成績を残した。表彰式で「ここに帰ってくる」と決意したことが、ゴルフ人生の大きなモチベーションになった。
 松山は「技術は他より優れていないが、気持ちだけは強かった」と自身を語る。本書ではそんな彼が人生の節目で何を感じ、学んできたかについて詳述する。ハイライトは10回目の出場となった今年のマスターズ。読者は激闘の緊張感、偉業達成の感動を追体験することになる。
 本書には「苦しいときこそチャンスがある」「自分自身を知る」など人生訓のようなフレーズが多く出てくる。子どもたちには「ゴルフを楽しむ気持ちだけは絶対に忘れないでほしい」と呼び掛ける。それらの言葉は子どもから高齢者まで多くの人の心に響くに違いない。(裕)

 徳間書店049(293)5521=1650円。

河北新報
2021年10月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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